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黒猫センチメートル。  作者: 三番茶屋
29/56

■■■

『私の他に色猫が三匹存在しているが、それについてどう思う?』

 黒猫は問いかける。

『私と同種、或いは同属、いや――例えそうだとしても、彼女らと私、絶対的な差異があるのだけどね』

『私と他の色猫は同じ存在だと言いたいのかい?それは概ね正しいが、間違いでもあるよ』

『それは声が私と他が全く同じだということに対しての質問と捉えていいのかい?まぁ、赤猫や青猫、白猫も私であって私ではないのだけどね』

 


 全く、お喋りな猫だ、と思った。



『ともかく、お前の知るように過去は変わった。現在も変わってしまった――崩壊してしまった。もうここまで物語が展開してしまったのなら、鈍感なお前でも察することができるだろう』

『いやいや、いくら頭脳明晰(ずのうめいせき)で、テストで満点を取ろうが、恋愛事情に関しては鈍感極まりないだろう』

『私も恋愛には(うと)い方だが、少なくともお前より女心は分かるよ。だって私、女だし』

『おいおい、猫の性別の話じゃないぞ。声で女だと認識できるだろう。それに今私が姿としてるこの『猫』だって、性別はメスだ』

『話が逸れてしまったね。まぁ、気にせず戻そう――つまり、峰 千早の存在が消えたのも、左目 翁の存在が消えたのも、全部猫のせいだということだよ』



 黒猫は笑う。

快活に笑う。



『あぁ、さすがに分かっていたか。でもお前は先の左目 翁からの一報がなければ永遠に気がつかなかったんじゃないか?だって、青猫の存在も、赤猫の存在も、お前は認知していないじゃないか』

『私がやったことだと思ってたんだろ?そうなんだろう?いいよ、言わなくて。改変された時点で――お前に伝えるべきだったかな。まぁそれでも、楽座 怜那は感づいていたから、これも単純にお前が鈍感なだけ――』

『痛い痛い、殴るな。私はこれでも小動物だぞ。動物愛護団体に言いつけるぞ。そしたらお前なんて動物虐待でイチコロなんだぞ』

『あぁ、あぁ、悪かったよ。謝るから、そんな悲しい目で見ないでくれ。同情しないでくれ』

『と言うか、元はと言えばお前が猫なんて姿で私を夢に見たのが原因なんだからな。お前が偶然道端で猫の死体を埋葬したのがきっかけだからな』

『多分、無意識の内に猫を埋葬したことを思い出していたんだろうね。そりゃそうだよ、例え猫とは言え、死体を触れば誰でも、嫌でも夢に出てきそうなものだ』

『だから前にも一度言っただろう。お前が人の形で夢を見てさえいれば、こんな不便にはならなかったと』

『あぁ、いや、別に猫でも不便ではないのだけどね。何と言うか、猫が喋ると違和感酷いだろう』

『自覚はあるよ、勿論。でも、にゃんにゃん鳴き真似しても無意味じゃないか。それはただの猫だよ。それにそんな恥ずかしい真似できるか』



 黒猫はそう言って、にゃおんと鳴いた。

意外と鳴き真似は上手かった。



『どうも、お前と喋ってると話が逸脱(いつだつ)してしまうな。つまり、お前と楽座 怜那同様、峰 千早も左目 翁も、猫に出遭っていたということさ。行き遭っていたということさ』

『峰 千早は過去を壊し、左目 翁は現在を壊した――その結果が、これだな。お前に改変される以前の記憶があるのは別に幸運とか奇跡とか、そんなんじゃないからね。単純に私がいるからという理由だけ』

『そもそも、私といるおかげで改変された夢を見るのだから、十分察することはできるはずなんだけど』

『左目 翁の夢は見なかった?それは当然だろう。お前は目を覚ましながら夢を見れるのか?肉体を活動させながら睡眠できるのか?もしできるのならぜひやってみて欲しいのだけど』

『まぁ左目 翁は改変するタイミングに失敗したと言ってもいいね。彼女の場合、恐らく峰 千早が過去を壊したことに気づいた後で猫に願ったんだろう』

『だって、お前がもし峰 千早ではなく、左目 翁の夢を見ていたとするならきっと、お前は彼女の方に駆けつけただろうに』

『あぁ、今となってはどちらも、彼女、だけれどね』

『しかし残念ながら、お前は峰 千早を選択したわけだ。これは彼女からすれば二度目の失恋になるな。恋心を抱く、愛しの立屋 千尋に二度も振られるなんて、全く飛んだ不幸だよ』

『はぁ?別に振ったわけじゃない?お前、今更なに好感度上げようとしてるんだよ。振ったよ、きっぱり振ったじゃないか。去年末もそうだし、今回もそうじゃないか』

『まさか、たまたま峰 千早を選択したと思っているのかい?はぁ、無自覚も大概にして欲しいよ。もしも左目 翁のことが心配で居ても立ってもいられないというのなら、真っ先に彼女の方に向かうのが道理だろう。現に存在が消失したのはほとんど同時で、お前もそれには気づいていたじゃないか』

『しかしなぁ、お前。よく考えてみろ、私がお前の前に現れる以前のことは詳しく知らないが、振られた男に自然体で接することができると思うか?きっとお前は気がつかなかっただろうが、彼女は彼女なりに色々思うことがあって、色々とお前にアピールしてたのではないか?』

『左目 翁がどうして現在を壊すことに至ったのか、お前にそれが理解できるか?』

『出来ないだろうなぁ、出来るはずないよ』

『私が彼女の代わりに代弁してあげようか。お前のことを諦め切れない彼女の深い愛情について代弁してあげようか』

『まぁ彼女のお前に対する愛情は深いだけじゃなく、ちょっとばかり狂ってるけどね。それこそ逸してると言っても過言じゃない。常軌を逸してる』

『何でそんなことが私に分かるのかって?簡単じゃないか。なら逆に訊こう、お前は自分が振った対象が一体全体どうして今まで通りに、いやそれ以上に接しているのか、答えることができるか?』



 黒猫は笑う。

今度は嘲笑う。



『友情?男女間の友情?笑わせないでくれよ、恥ずかしい。高校生の男女間で純粋な友情関係が築けるとでも思うのかい?』

『お前はそうじゃないかもしれないけれど、普通はどこか色目で相手を見たり、欲望の対象として捉えたりするものだよ。嫌な話だけどね。女子は皆等しく腹黒いし、男子は皆等しく欲望の塊だ』

『それに、彼女が現在を壊してしまったことは、主にお前が原因だからな。お前との関係が原因だよ』

『ここまで言っても未だ理解できないのかい?いやはや、本当に鈍感だなぁ。まぁお前らしくて良いけど。つまり、左目 翁はお前との現在の関係を壊したかったと言うことだよ』

『間違えないでくれ。お前と縁を切りたいとか、そういう意味じゃないよ。お前のことが好きすぎて辛い、叶わない恋ならいっそのこと関係を白紙にしたいとか、そういう意味でもない』






『――お前と付き合いたいからだよ』






『お前と付き合いたい、恋仲になりたい。けれど、お前は一向に彼女に振り向かない現実。お前は彼女のことを一人の友人としてしか捉えていないわけだし、このまま先、友達同士っていう関係性がどうしようもなく嫌だったんだね』

『そうだね、勿論未来のことは分からない。今後お前が何かの拍子に彼女のことを好きになる可能性はある。だけど、そんな――誰にも見えない未来に、一体誰が頼るというのだい?そんな賭けが成立するのかい?』

『これはね、自分の将来を夢見て何かに一生懸命励むとか、取り組むっていうこととは全然違うんだよ』

『未来に投資するというのが馬鹿らしいわけではなく、無意味も甚だしいベットで賭けをするなんてリスキーだということさ』

『だって現に今回の件に関して言えば、彼女に残された選択はお前が振り向いてくれるのを健気に待つだけ、だからね』

『少なくとも恋愛事情について、未来に賭けるなんて無意味極まりないよ』

『好きだからそれを伝えて、告白して――それで振られた後、一体どうすればいいと言うのだい?諦めて次に向かうのか、それとも諦めきれず想い続けるのか』

『それが報われるならまだしも、お前、そんな気さらさらないじゃないか。毛頭ないじゃないか。毛ほども残っていないじゃないか』

『いやまぁ、毛はあるけど』

『だから、私には彼女の選択の意図がよく理解できるよ。彼女もそんなこと重々承知だろうし、だからこその決断なのだろうね』

『こんなこと言ってると、あたかもお前と左目 翁の恋のキューピットを演じているように見えるかもしれないが、そうではないから誤解するんじゃないよ。別に彼女の恋愛の行く先がどこに向かおうとしてるのかなんて、知ったことではないし、応援するつもりもないからね』

『だから、お前が鈍感が故にこうして説明してあげてるんじゃないか。どうして彼女が現在を壊したのかを解説してあげてるんじゃないか』

『嫉妬?嫉妬、嫉妬、嫉妬ねぇ。それを言うなら彼女が一番詳しいだろうね』



 黒猫は肩を竦めた。

竦める肩はないけれど。



『まぁ、私としてはお前がどこぞの女子といちゃいちゃしている様を間近で見せ付けられるのは、如何せん気に食わないからやめて欲しいね』

『本音だよ、だから言っただろう。別に応援する気なんてないと』

『私こそが嫉妬してるんじゃないかって?どうだろうね、それを言えばまるで私がお前に恋をしているようじゃないか』

『そう言えば、お前と出遭う前、告白されたな』

『俺の方が好きだよ――なんて、言ってたっけ』

『あぁ、その前に私が告白してたのか?もう忘れたけど――いや、そんなことどうだっていい』



 黒猫はそこでまた話を唐突に切り上げて、元に戻す。



『過去が変わり、現在が変わり――これって結局同じだと思わないかい?』

『過去が変わった結果、峰 千早の現在は変わった。現在が変わった結果、私たちを取り巻く環境が変わった。つまり、どちらも過去、現在と変わっているだろう?』

『それは何故か、そんなこと誰でも分かる疑問だ。過去、現在、未来、時間は違えど、一本の線上に成り立つ時間軸なのだから、当然だな』

『それを言うなら、どの猫も同じ存在で同じことが出来る、と言っても支障はないかもしれない。まぁ、細かく見れば全然違うのだけれど』

『でも、よくもまぁ身勝手に、しかも簡単に改変できるよね。二人に共通してかなり利己的だよ。自分の思い通りにいかないから、自分の嫌なことを忘れたいから、とか。もしもタイムマシンが一般的に実用化されたら、この世界は酷く狂うよね、きっと』

『あぁ、峰 千早の過去改変について?そうか、話してなかったっけ』




『ならこれもまた私が代弁してあげようか、生憎(あいにく)、時間なら死ぬほどある』


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