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どうやら夢だったらしい――と。
いや、正夢だったらしいと、『彼女』に出遭ったのは最後に黒猫を埋葬した公園から帰った後のことだ。
今思えば、随分昔のような気がするけれど、実際一ヶ月にも満たない。
けれど、そんな短い期間でも悩むには十二分だったし、色々な感情が渦巻くのに容易な時間でもあった。
千尋に嫉妬して、峰くんに嫉妬して、楽座さんに嫉妬して。
妬ましくて、嫉ましかった。
大切な友人のことが嫌いになりそうだった。
だけど一番嫌いだったのはそんな感情を腹の中に抱える自分だった。
自己嫌悪。
自己嫌悪。
どうしようもなかった。
この感情を抑える術をあたしは知らない。
千尋や楽座さんに『素直過ぎる』と何度か言われたことがあったけれど、そのせいなのか情緒の抑制が苦手だった。
言いたいことは言う――それは良いことなのか、悪いことなのか。
一長一短なのだろうが、あたしの場合それは裏目に出ることの方が多いようだった。
素直に思ったことを口にする。
良く言えば、自分の意見を明確に発言できる。
悪く言えば、空気が読めない。
他人の嫌な部分に平気で足を踏み入れてしまう。
そんなこと、わかっていはいるのだ。
自分でも理解はしているつもりだ。
だけど、思いの外それは裏目裏目に。
だからあたしが素直に千尋に「好きです」と告白をしても、それは裏目だった。
結果的に振られて、終わり。
それでも諦め切れなかった。
だからこそ――。
だからこそ、ここで少し過去を回想してみるとしよう。
回想して、あたしの腹の中がどれだけ黒くて醜いのか知って貰おうと思う。
嫉妬心に塗れて、嫌悪感に苛まれるあたしを見て貰おうと思う。
純粋な恋愛感情ではなく、狂った――屈折した愛情の対象である千尋との過去だ。
そして、嫉妬心ばかり募る――峰くんと楽座さんとの過去だ。
それはつまり、『あたしの知る過去』であり『千尋と楽座さんの知る過去』でもあり『女性化した峰くんが知る過去』でもある『以前』の話。
過去が変わる以前の話。
あたしは重大にして、重要な嘘を一つ吐いていた。
それは友人を裏切るものだったし、大好きな彼を貶めるものだった。
勿論、最初はそんなつもりはなかった。
そして言えなかったことが二つ。
あたしは既に『猫』と出遭っていたということ。
千尋のことを諦めきれず、まだ好きだということ。
ここから先は、あたしの後悔でしかない。
だから本来これは語られるべきものではないだろうし、語られるのだとしたら誰に伝えるでもなく教室の隅でぼそぼそと独り言のように呟く程度のことなのだろう。




