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黒猫センチメートル。  作者: 三番茶屋
22/56

口口口

 夢を見た――いつにも増して快眠だった。

血色で染めたような、真っ赤の毛並みの赤猫が喋っていた。

黒色の細い瞳がやけに際立って見えた。

あたしは赤猫に手招きをしていた。

『こっちにおいで』と、そう言った。

赤猫はついて来なかった。

 

        ◆


夢を見た――。

赤猫がそっぽを向いて走り去ったのを見てあたしは後を追いかけた。

ふらふらと手招きを続けた。

『私の名前は口口口だ』と赤猫は振り返って名乗った。

あたしには聞こえなかった。

 赤猫に名乗り返した。

「あたしの名前は左目翁だよ」

赤猫は無反応に去っていった。


        ◆


「そう言えばお前、この辺りで私と同じような猫を見かけなかったか。鮮やかな色の猫だ」

「………」

「もし見かけても付いて行かない方が良い。色猫は昔から不幸の前触れと言う」

「………」

「私は色猫が嫌いだ。絶滅してくれ」

「あたしは赤猫が好きだよ」

 赤猫は笑わなかった。


        ◆


「夢を食べる生物って何だと思う?」

「………」

「正解は人間だよ」

「夢を食べるのはバクだとあたしは思うよ」

「それもそうだ」

 赤猫は訝しんだ。

「過去も現在も未来も、全部人は食らう」

「あたしは現在なら食べたいって思うかも知れないね。おいしそうだし」

 赤猫は訝しんだ。

       ◆


「お前は私のことが好きか?」

「大好き」

「そうか、私はお前が大嫌いだ」

「あたしは君以上に好きだよ」

 赤猫は呆れた。


        ◆


「未来を変えたいとは思うか?」

「思わない」

「過去を変えたいと思うか?」

「思わない」

「現在を変えたいと思うか?」

「思う」

「なら何を変えたいと思う?」

「現在以外は変えたくないと思う」

 赤猫は濁った声で苦笑いした。


        ◆


「さて、夢もそろそろ終わりだが、何か言いたいことはあるか?」

「君のお名前は?」

「口口口と名乗っただろう」

「あぁ、そうなんだ。口口口か――」

「良い名前だろう」

 やっぱりどうしてもあたしには聞き取れなかった。

「起きればもう朝だ。じゃあな」

「また会えるよね?」

「………」

 赤猫は沈黙して赤い渦の中へと消えていった。

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