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黒猫センチメートル。  作者: 三番茶屋
20/56

5cm/m

 病院内での携帯電話の使用が億劫(おっくう)なので、怜也に別れを告げ、外を歩く。

日焼け止めを念入りに塗って正解だったと思えるほど、日差しが強かった。

それでも気温は比較的涼しく、まだ少し肌寒い春風が木々を揺らす。

 頭に白い猫を乗せて。

「楽座です、今日は欠席してすいません――大丈夫です。週明けにはちゃんと登校するので――」

 発信先は学校である。

私の通う学校。

彼と左目さんと峰くんが通う学校。

 この現状が『彼女』の言う通り、過去が変化したということなら確認すべきことがある。

私が記憶している過去とはまた違う『過去』が生んだ現在だとするならば、消えた二人の処遇を確かめる必要があった。

具体的には、二人を取り巻く環境がどう変化しているのか。

過去が別のものに変貌したのなら、再構築された過去が一体どういったものなのか――ということを知るためだ。

そのためにはまず、学校内で左目さんと峰くんの存在を把握するべきだと思った。


「ところで左目さんは――――「じゃぁ、峰『くん』は――――」


 ……。

…………。

なるほど、そういうことかと納得できる。 

過去が変化したとか、過去が変貌したとか――過去が崩壊したとか、言いえて正しい。

朝目覚めてからの刹那、或いは夢を見た一瞬にして現実が変化したせいでそれほどの実感はなかったが、ここで改めてより一層奇妙な世界になっていることを理解した。

まさに荒唐無稽だ。

荒唐無稽が織り成す荒唐無稽な世界だ。

けれど納得は可能でも、幾つか疑問点があった。

『彼女』の話を少し聞くに、この過去改変は彼の黒猫でも、私の白猫でもないらしい。

なら誰が――。

と言う疑問は早々に解決する。

猫に訊くまでも無く、ヒントを貰うわけでもなく、自力で答えであろうそれを導くことができた。

 どうしてかは謎だが、『彼女』は核心を突く質問を曖昧にして話を逸らす癖がある。

そして答えに渋る。

そのせいで訊くに訊き辛いことがよくある。

まぁだらだらと捻じ曲がった理屈を並べられるのも程々にして欲しかったから、これは不幸中の幸いとでも言うのかもしれない。

何より、遠まわしな物言いを延々と聞いてるだけで苛々して全身がこそばゆくなる。

彼はそんな『彼女』と仲睦まじい様子だったが、同じ猫でも性格に違いがあるのだろうか。

声は完全一致の同一人物だと言うのに。

人ではなく、猫だが。なぜか私の猫は少し濁った声だが。

 ともかく。

連絡先がわからない以上、後は学校に赴くしなかない。

私服で構わないだろうか。

いや――間違えてもサボタージュしている身、直接向かうのは良くないか。

こんなことになるなら死を覚悟するほどの発熱だ、なんて嘘を吐かなければよかった。

素直に彼みたく無断で欠席すればよかった。

なんて、考えながら取り合えず学校に向かって足を進めた。




 先ほどの電話。

かなり不審に思われたが――私と左目さんとは同じクラスらしい。

そして、仲が良さそうには見えないらしい。

過去改変の影響が及んでいるのだろう。

 ところで。

峰『さん』は無断で学校を早退。

私と彼同様、一種のサボタージュらしかった。



 ここで先の疑問にはこう答えることにしよう。

峰くんはどうやら過去を変えて女子生徒になっていた。

『彼女』もまた『彼女』に出遭っていたのかと思うと、私と彼の特殊な関係性に亀裂が生じたような気がした。

あくまでも嫉妬だが。

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