口口口
夢を見た――白い靄が覆いかかったような、曖昧なものだった。
そんな曖昧な――真っ白な世界の中で、一人の少年に声を掛けられた。
曖昧な人物像だったが、直感で彼が峰 千早だと理解した。
彼は二度目の再会を喜ぶようにして、私の手を握った。
手を握って、笑って、歓喜して。
反応に困っている姿を見て察したのか、彼は笑顔を消して踵を返した。
私は追いかけなかった。
◆
夢を見た――白い靄が覆いかかったような、曖昧なものだった。
そんな曖昧な――真っ白な世界の中で、一人の少女に声を掛けられた。
曖昧な人物像だったが、直感で彼女が峰 千早だと理解した。
彼女は二度目の再会を喜ぶようにして、俺の手を握った。
手を握って、笑って、歓喜して。
反応に困っている姿を見て察したのか、彼女は笑顔を消して踵を返した。
私は追いかけた。
◆
「また会えて嬉しいです」
「………」
彼女は振り返って、細い手を口元に当てて小さく笑った。
さながら深窓のお嬢様のようだった。
「本当に峰くん?」
そんな質問を投げ掛けられたことが意外だったようで、彼女は衝撃を受けた表情と共にまた走り去って行った。
彼女の背中が消えた後、『猫』と出遭った夢と同じような感覚だ、と何となくふと気がついた。
◆
「本当に峰くん?」
距離感の無い曖昧な世界で再度少女を見つけて、しゃがみ込んだ彼女の背後から訊く。
一瞬、先と同じように体を反応させたが、突然走り去るようなことはしなかった。
力が尽きたのだろうか。
気力を無くしたのだろうか。
「ぼ、ぼ――」
堪忍したようで、彼女は口を開く。
小刻みに体を揺らしていた。
色々な『何か』を抱え込んだように、震えに震えていたのだった。
それでも勇気を奮おうと。
それでも猛威を振るおうと。
それでも力を揮おうと。
「ぼ、ぼ…僕は――」
彼女は案の定、一人称をそう名乗ったのだった。
私は名乗り返さなかった。
◆
「僕は――僕はこんなにも僕が嫌いだ」
彼女はそう吐いて、『彼』の首根っこを掴んだ。
「私は峰くんのことは嫌いじゃない」
私はそう吐いて、『彼女』の首根っこを掴んだ。
「僕は――僕はこんなにも僕が嫌いだ」
彼女はそう吐いて、『彼』を締め上げた。
私の手は緩んだ。




