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黒猫センチメートル。  作者: 三番茶屋
14/56

■■■

 

 夢を見た――黒い(もや)が覆いかかったような、曖昧なものだった。

そんな曖昧な――真っ白な世界の中で、一人の少年に声を掛けられた。

名前は知らない。

顔も覚えが無い。

けれど彼は二度目の再会を喜ぶようにして、俺の手を握ったのだ。

手を握って、笑って、歓喜して。

反応に困っている姿を見て察したのか、少年は笑顔を消して(きびす)を返した。

俺は追いかけなかった。




        ◆


 


 夢を見た――黒い(もや)が覆いかかったような、曖昧なものだった。

そんな曖昧な――真っ白な世界の中で、一人の少女に声を掛けられた。

名前は知らない。

顔も覚えが無い。

けれど彼女は二度目の再会を喜ぶようにして、俺の手を握ったのだ。

手を握って、笑って、歓喜して。

反応に困っている姿を見て察したのか、少女は笑顔を消して(きびす)を返した。

俺は追いかけた。




        ◆




「また会えて嬉しいです」

「………」

 少女は振り返って、細い手を口元に当てて小さく笑った。

さながら深窓のお嬢様のようだった。

「君は誰だ?」

 そんな質問を投げ掛けられたことが意外だったようで、彼女は衝撃を受けた表情と共にまた走り去って行った。

彼女の背中が消えた後、『猫』と出遭った夢と同じような感覚だ、と何となくふと気がついた。




        ◆




「君は誰だ?」

 距離感の無い曖昧な世界で再度少女を見つけて、しゃがみ込んだ彼女の背後から訊く。

一瞬、先と同じように体を反応させたが、突然走り去るようなことはしなかった。

力が尽きたのだろうか。

気力を無くしたのだろうか。

「ぼ、ぼ――」

 堪忍したようで、少女は口を開く。

小刻みに体を揺らしていた。

色々な『何か』を抱え込んだように、震えに震えていたのだった。

それでも勇気を(ふる)おうと。

それでも猛威を振るおうと。

それでも力を(ふる)おうと。

「ぼ、ぼ…僕は――」

 少女は意外にも、一人称をそう名乗ったのだった。

俺は名乗り返さなかった。

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