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黒猫センチメートル。  作者: 三番茶屋
1/56

■■■

 夢を見た――ひどく(うな)されたものだった。

醤油に漬けたような真っ黒の毛並みの黒猫が喋っていた。

虹色の細い瞳がやけに際立って見えた。

細長い尻尾を器用に動かして俺に手招きをしている風に思えた。

『こっちにおいで』と、そう聞こえた。


        ◆


 夢を見た――。

黒猫がゆっくり歩き出したのを見て後を追いかけた。

ふらふらと細長い尻尾を揺らしていた。

『私の名前は■■■だ』と黒猫は振り返って名乗った。

俺には聞こえなかった。

 黒猫に名乗り返した。

「俺の名前は立屋(たちや) 千尋(ちひろ)だ」

黒猫はそれを聞いて甘えた声で鳴いて見せた。

 

        ◆


「そう言えばお前、この辺りで私と同じような猫を見なかったか。鮮やかな色の猫だ」

「………」

「もし見かけても付いて行かない方が良い。色猫は昔から不幸の前触れと言う」

「………」

「私は色猫が嫌いだ。絶滅してくれ」

「俺は黒猫が好きだよ」

 黒猫は快活に笑った。


        ◆


「夢を食べる生物って何だと思う?」

「………」

「正解はバクだよ」

「夢を食べるのは人間だと俺は思う」

「それもそうだ」

 黒猫は微笑んだ。

「過去も現在も未来も、全部人は食らう」

「俺は別に食べようと思わない。おいしそうじゃないし」

 黒猫は微笑んだ。


        ◆


「お前は私のことが好きか?」

「大好きだよ」

「そうか、私もお前が大好きだ」

「俺は君以上に好きだよ」

 黒猫は頬を赤らめた。


        ◆


「未来を変えたいとは思うか?」

「思う」

「過去を変えたいと思うか?」

「思う」

「現在を変えたいと思うか?」

「思う」

「なら何を変えたいと思う?」

「何も変えたくないと思う」

 黒猫は愛くるしい声で苦笑いした。


        ◆


「さて、夢もそろそろ終わりだが、何か言いたいことはあるか?」

「君の名前は?」

「■■■と名乗っただろう」

「あぁ、そっか。■■■か――」

「良い名前だろう」

 やっぱりどうしても俺には聞き取れなかった。

「起きればもう朝だ。じゃあな」

「また会おう」

「………」

 黒猫は沈黙して黒い渦の中へと消えていった。

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