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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

他殺願望

作者: 田中 隆

生きる覚悟もなければ死ぬ勇気もない。男はそんな事を思い煙草に火を点ける。朝の4時過ぎ、外はまだ暗い。部屋は暖房のタイマーが切れたのか肌を痛めつける寒さが広がっている。心にすきま風が吹き付けては痛むばかりである。この2年ほど不規則な生活を送っているせいで、太陽が昇ってからでないと眠れない日が続いている。


この男はというと大学を一年留年し、就職も決まらず、アルバイトをしながら親の脛をかじっている。親に後ろめたい気持ちを感じ、自分の不甲斐なさに肩を落とし、それでも甘えれるものには甘えてやろうという貪欲さを持ち合わせている。


見た目はいたって普通、少し顔が濃いだけで平均的な背格好である。しかし男の持つ思想や哲学は一般人には理解し難いものであった。男は懐疑的で、矛盾に対して肯定的、経験主義な一面もあり、死生観は他殺願望があった。そして彼の頭の中は言葉で埋め尽くされていた。言葉をいくつ並べても理解できるとは限らないので、これらに対する説明は省く。


ある日、男は街へと買い物へ行く。中古のCDを買うのである。白シャツにチノパン、靴は白のスニーカー。一般人である。しかし彼の頭の中は言葉が溢れている故に独り言が止まらない。つまらないダジャレだったり、「ベロンポンチョフ」といったこの世に存在しない言葉だったりするのだが、それが風に乗り周りの一般人の耳に入れば、みんな彼を不可思議な目で見つめ遠ざけるだけであった。


帰宅すればまたいつものように夜がやってくる。そう思った彼は独りで飲みに行く事にし、一軒の個人経営の居酒屋に入った。何気なく世間話をしていたが、店主は徐々に彼の言っている事が理解できなくなり、話し掛けるのを止めた。男は急に胸が苦しくなって来てトイレに駆け込み、吐いた。男は思った、「社会的に見て必要とされてない自分に生きる意味もないし、死ぬ意味もない。自殺するほどの勇気はないが、他人に殺されたなら納得して死ねるのではないかと。」


翌日から彼は人殺しをしそうな人や通り魔を探し歩いた。居なかった。それはそうである。誰かが人を殺そうとしてるかなど分からないし、通り魔を見抜ける訳もないのである。失望した男はどうでもいい音楽を聴きながら酒を飲み、煙草を吸っていた。残り一本になったピースを見て「ビール飲んでピーズ聴いてピース吸う。最後ピースフルみたいな発音やったな」などと言ってからコンビニにへと向かう。


コンビニに着くとエロ本を立ち読みするおっさん、酒を購入しようとしているカップル、眠たそうな店員。そそくさと買い物を済ませ、店を後にする。カップルはまだ酒を決めかねている。おっさんはおそらく勃っている。店員はジャンプを読んでいる。


家の近くまで帰ってくると、公園の近くで声が聞こえる。またどうせヤンキーがタムロしているのだろうと思ったが、近づけば苦しそうな女性の声が聞こえる。これは・・・と思った彼は声のする方向へ吸い寄せられた。

見てしまったのである、紛れもなく女性がレイプされている現場を。押さえ込まれた女性の服ははだけていて、押さえている男性の手には刃物が見える。無意識(正確に言えば一種の正義感と他殺願望という不純な動機が相まっていた。)にレイプ魔に蹴りを入れていた。びっくりしているレイプ魔の顔面にもう一発蹴りを入れ、押さえつけた。女性は大丈夫だろうかと目を向けた瞬間、「プレイの邪魔すんじゃねえ!」そう言うと女性はレイプ魔が持っていた刃物で男の首筋を引き裂いた。

血が流れている感覚と体温が下がっていく感覚、意識が朦朧としていくのがわかった。これで死ねるのかという安心感と、呆気ないなあという失望、それでも辞世句でも読んでやろうかという楽天さがある。


ついに死を迎える時に彼は思った「両親の葬式の喪主できないなあ」そして最後の一呼吸で言った「俺、ダメだった?」

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