ディガリア城急襲?だから?①
前回は、なんともケロロ軍曹な回になってしまいましたね
今回は、どうでしょうか?
「うぅ~ん」
ここはディガリア城の沢山ある部屋の一つ。
「うぅ~む」
黒銀聖龍騎士団第一師団師団長 ユウキ中将の寝室である。
「うむむむ」
太陽が緩やかに登り、辺りが明るくなって来はじめた頃、この部屋で一人のアルフが唸っていた。
「何故…どうしてこうなっているのか…誰か教えて……」
彼は、朝起きたら鎖で亀甲縛りにされていた。
そこまではいい。
問題は半裸状態な事と、自分の隣に、すうすうと寝息を立てて、全裸でシーツにくるまっているイカロスがいる事だ。
「色々と記憶にございません。私は無罪です」
昨夜は、酒精も摂らずに一人でベッドに入ったはず…、などと必死に思考を巡らせていたら、イカロスさんがお目覚めになられた。
「……きのう、は…すごかった…」
顔を赤らめて、シーツで顔を隠してしまった。
なにが!?なにを!!
ユウキは、今まで考えていた事が、ガラガラと崩れ去る音を聴き、時間が止まった気がした。
そこにイカロスが更なる追撃を掛けた。
「……せきにん……とっ、て………?」
そう言って、目元だけを出して、小首を傾げた。
ユウキの中で次々と、何かが音を立てて崩れさる。
「う」
「…う?」
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ゛ぁぁぁぁあ゛」
絶叫が響き渡った。
かくして、今日もディガリア城の長い1日が始まったのであった。
「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「大丈夫じゃない…大問題だ…」
軍服を着込んだ二人のアルフが、肩を並べて廊下を歩いていた。
内一人は、ゲッソリとしていてフラフラ歩いていて、どこか危なっかしい。
前から歩いて来たり、廊下の角から歩いて来たりする兵士達は、二人の姿を見ると顔を引き締めて、最敬礼をする。
彼らにジョン達は頷いてから通り過ぎていた。
「何が有ったんだ?」
「色々……ぼかぁ、もうダメかもしれない…」
「?」
ジョンは、頭の上にクエッションマークを浮かべた。
二人の向かう先は、団長室であった。
先程、クイーンに呼び出されたのだ。
重厚な扉の前に到着し、息を整えてからノックをする。
『入りたまえ』
部屋の中から返事が帰って来てからドアノブを回した。
「呼び出して住まないね」
クイーンが、頭をポリポリと掻いた。
「いえ、大丈夫です」
ジョンが答えた。
「あーと、ユウキ君は大丈夫かな?」
ゲンナリしているユウキを見て、苦笑いする。
「だ、大丈夫…です……多分。子供が産まれたら宜しくお願いします…」
「?」
クイーンの頭上にもクエッションマークが浮かぶ。
実は、あの後お腹の、とある特殊な臓器がある所を、大事そうに撫でながら服を着て、部屋を出ていったイカロスを何も出来ずにユウキは見ていたのだった。
ちなみに、鎖は引き千切ったそうな。
「まぁ、大丈夫なら良いけど…実は、二人に相談したい事があってね」
クイーンが、途端に真剣な顔をしだした。
自然に二人の気が引き締まる。
部屋に張り詰めた空気が立ち込め、お茶を淹れて持ってきた、気の弱い秘書の女性アルフが気絶した。
湯飲み茶碗が割れる音で、部屋の空気が緩和されたが、これはこれで気まずい雰囲気になってしまった。
三人は顔を見合せ、とりあえず、三人で秘書を介抱して、近くを通りかかった兵士に任せて下がらせた。
「ゴホン…それで、相談事なんだけど、実は最近こんな噂を風に聞いてね」
クイーンは、眉根を寄せて手を組んだ。
ちなみに風とは、騎士団の諜報科の事を指す隠語である。
「どうやら近々、サラマンダーの連中が、何かしら大規模な作戦を決行するらしい」
この言葉に、二人の顔が苦虫を噛み潰した様に歪められた。
「大規模、ですか」
「大規模、だそうだよ。目標は今だ不明…目下全力で捜査中だそうで」
二人は、頭を抱えて溜め息を付く。
ユウキに限っては、最近悩み事が多すぎて、胃腸が不機嫌になり気味であったりする。
近頃近隣の村が襲撃されなくなってきて、一安心していたら、これだ。
頭を抱えたくもなる。
しかも、目の前の神物が、何か期待する眼でこちらを見ているのも、胃痛の原因の一つだろうと、勝手に理論付ける。
「降りて良いですか?」
「そんな事言わないでよ~」
再び、ユウキは溜め息を漏らした。
その隣で、ジョンはやれやれと頭を振った。
☆ユウキ視点
「まず、何かをする前に、イカロスの所に行く必要があるな…」
うぅむ…ぼかぁ、本当に寝込みを襲われたのか…?
確かめる必要がある。
目の前には、比較的軽い色の、樫の扉がある。
平均的な目線の高さに、プレートが填まっており、直筆で『イカロス』と書いてある。
俺の大切な人だ。
そんな事は今はどうでもいい!
どうでもよくはないが、今は重要ではない!
重要な事は、イカロスとヤってしまったかどうかだ…
いるかな…
扉に手を伸ばし、一瞬躊躇ったが、気を引き締めてノックをして、ドアノブを回した。
あぁ、やっぱり襲われたみたい…
そんな事する娘じゃないと思ってたのに、間違いだったらしい。
実は、かなり大胆な事をするみたいだ…
熱心に、毛糸を使って小さなセーターを編んでいるイカロスがいた。
「……あ…」
イカロスが、入って来た俺に気が付いたらしい。
この部屋には椅子が見当たらないので、ベッドに腰掛けているイカロスの隣に腰を降ろした。
「あ、あの…イカロスさん?」
「…な、に?」
すごくいい匂いが…
うわぁ、可愛えぇ~襲いてぇ…
はっ!俺は一体!
危ない、欲望に支配されそうだった。
「な、何故私の寝込みを襲おいになられたのでしょうか…」
顔を赤らめて、俯いてしまったが、話してくれた。
「……イン、フィーが………はやいほうが…いい、って」
「インフィぃいいいいぃぃぃぃぃいぃいぃあぁぁぁあぁぁあ!!!!」
余計な事を、許さんぞ!
いつか俺が襲うはずだったのに…
「……と、ジョン…が」
よし、殺しに行こうか今すぐに。
「ちょっと重要で早急に始末しなきゃいけない急用を思い出したから、もう行くよ」
そう言って、立ち上がろうとしたら、肩を押さえ付けられた。
それも万力みたいな力で…肩に手を置いているのはもちろんイカロス大先生です。
かなり痛いです。
「あの、ヤツを始末しに…問題を解決しに行かなきゃ…」
「……いか、さない…」
今、なんと仰いました?
行かさない?
「きょう、は…いっしょに…いよ」
今日は、一緒にいよう?
何をするおつもりでしょうか。
遂に、春が新幹線に乗ってやって来たのかな?
襲われた後だけど。
とりあえず、元の位置に腰を降ろし、足を組む。
「ぐ、具体的には、何をして過ごすおつもりで?」
「…いっしょに…」
「一緒に?」
「…………」
お黙りになってしまわれた…
「……ね」
イカロスが何かを言おうとした時、ディガリア城が、激しく揺れた。
パラパラと天井の漆喰が落ちてくる。
それ位激しい揺れだった。
気が付いたら、お互いビックリして抱き付いていた。
しかし、何時もの無表情なのが悔しい。
「てき、しゅう」
「!」
朝、クイーンさんが言っていた事の目標はここだったんだ!
急いで軍服の上に、アイテムボックスから直接鎧を転送し、装着する。
「先に行ってるよ。特務剣甲部隊司令官殿」
「まって…」
呼び止められた。
「えりが…まがってる」
そっと鎧の首元から覗く、軍服の曲がった襟を直してくれる。
「ありが…むぐ…!」
その時何があったかは、秘密だ。
後からすぐ行く、とイカロスの部屋を出るときに聞き、返事だけを返して地下にある作戦指令室に急いだ。
部屋には、何時もの主要メンバーを除くすべての幕僚が揃っていた。
「誰か現状を教えてくれ」
クイーンさんが来るまで、今は自分が最先任だ。
「サラマンダーの大部隊が、突如森から現れ、東門でジョン中将閣下が一人で食い止めていらっしゃる模様、現在支援部隊を派遣した所です。先程の揺れですが、後方にあると思われる敵本陣からの魔導兵器による砲撃です。直撃ですが、魔術障壁のお陰で被害は大した事はありません」
参謀長の、アルガンク=ノイタール准将が説明してくれた。
どうやら、ジョンはこられなさそうだ。
「わかった。それで、団長は?」
「現在、ウンディーネ女王国の首都に向かわれました。インフィー少将は、サラマンダーの増援部隊の合流を防ぐ為に、第七連隊を率いて出撃されました」
増援部隊に魔導兵器…本気でここを落としたいようだな…だが、こんなモノではこの城は落とせない。
ざまあみろ。
「騎龍参謀、貴様何か言いたそうな顔をしているな。言ってみろ」
壮年男性アルフが、こちらを物言いたげに見ていたので、話を振ってみた。
「我々にはまだ声が掛かっていませんでしたねで」
「成る程」
確か、騎龍科を担当してたのは~…俺だ…ごめんなさい騎龍参謀、すっかり忘れてました。
「直ちに動ける騎龍の内、三分の二を索敵に、三分の一を更に二分し、片方を東門の援護と西門の警戒、もう片方は、敵本陣の正確な位置を探れ。以上だ」
「はっ!!」
騎龍参謀が、指令室を飛び出して言った。
おいおい、魔法で通信すればいいじゃん。
丁度入れ違いでイカロス大先生が入って来られた。
さっきの私服ではなく、剣甲科特有の、全面集中防御の鎧と、白いのっぺらぼうの仮面で、右目から左目、そして垂直に左目を通る十字の青い傷が入った仮面を顔に付けていた。
ちなみに、この仮面も防具の一つであり、仮面はオリハルコン製で、仮面の裏側に魔法で景色を透過している。
オリハルコンは本来青色だが、とある事情で白く塗装してある。
イカロスの仮面の十字の傷が青色をしているのは、塗装が削れて地の色が見えてしまっているだけ。
あと、何故全面集中防御かと言うと、剣甲科は所謂斬り込み隊で、タワーシールドと長剣を持って集中攻撃を受けながら敵陣に突っ込み前進し続けるから、後ろはどうでも良いのだ。
これは、後退や背を向けて逃げる事は無いと言う意志の表れだとも言われていり。
「おそく、なった」
イカロスの入室に、士官一同が一斉に軍靴の踵を打ち鳴らした。
ガッという音が部屋を満たした。
まあ、当然である。
敵の攻撃を殆ど引き受け、後方に続く味方を先導する部隊の司令官で、何時もその先頭に自らが立って居るのだから、俺なんかよりも尊敬具合が違うのは当たり前。
ちなみに、イカロスは少将。
しかし、騎士団と言えどもあまり軍隊と変わらない。階級は絶対なのだ。
咳払いすると、慌てこちらに向き直った。
一同誰が一番偉いのか思い出したご様子。
「イカロス達、特務剣甲大隊を含む剣甲科は、騎龍科からの敵本陣位置の情報が入るまで待機。情報が入り次第、剣甲科には申し訳ないが敵の背後まで迂回し強襲突撃。敵の撹乱と混乱に乗じて司令官クラスの拉致。達成後は、速やかに帰還せよ。退避が確認され次第、俺が敵本陣の兵力を滅する」
「りょうかい」
指令室がざわめく。
まあ、仕方ないだろう。
虎の子部隊を、拉致目的に使うのだから。
その上、俺が敵の殲滅撃破を宣言したのだから。
「宜しいのですか?閣下」
「なにがだ?」
「何時もなら、なるべく敵を生かす事を前提に、作戦行動を採られている閣下が、今回は殲滅とは」
参謀長が、みんなの疑問を口にした。
「答えは単純だ。捕虜を捕らえたら、何が減る?」
「……食料と場所、ですな」
「そうだ。それもあれだけの数だぞ?もし捕虜の引き渡しが長引いたら、どれ程の物質が消えるか分かったものではない。それと場所。邪魔すぎるし、そもそも城内に入れる訳にもいかない」
そう。捕虜が何を持って行くかは常に相場が決まっている。
捕虜に食料なぞやるなとの声も耳にするが、飢え死にした連中を弔う方が、圧倒的に場所の邪魔だし、物質の無駄遣いである。
それに、どうせまた原隊復帰したら立ち向かってくるんだ。
早く摘み取って置いた方が、得策だし、何より時間が稼げる。
連中には申し訳ないが、消えて貰うしかない。
『北東より高魔力反応、感!』
向こうで波動魔探(魔力が発する波動を感知するレーダー的なもの、電探のこの世界版) を担当している観測員が、悲鳴じみた声で報告してきた。
魔導兵器による第二射のようだね。
何度やっても結果は同じなんだよね…そうだ、この際経験を積ませる為に、わざと被害を出させてみるかな?
「騎龍科の偵察隊に、その地点に向かうように伝えろ。先程の攻撃で、魔導障壁が弱っている可能性があるので…」
『魔導力、高速で収束!次弾、来ます!!』
最後まで言わせてよ。
「総員、対衝撃体勢!慌てるな、奴ら焦ってやがる。これが場所を教えるとも知らずに」
全員が、何かしらの物体にしがみつき、衝撃に備えた所で城が盛大に揺れた。
漆喰だけでなく、天井を形成している石のブロックまで落ちてきたのは焦った。
「ダメージコントロール、状況知らせ」
こう言う時は、司令官がどっしりしていれば、みんな落ち着く。
俺って良く分かってるだろ?
今回は誰にも教えずに、魔導障壁の出力を抑えた。
何でそんな事が出来るかはヒミツ。
「報告します!敵弾は障壁を貫通、城壁の一部を破壊しましたが、人的被害はありません!」
「分かった。どこの部屋が壊れた?」
「申し上げ難いのですが…ジョン中将閣下の御私室と隣接していた会議室です。他は下級士官殿達の部屋が多数です」
「分かった。下がってよい」
あちゃー、士官達の部屋に当たっちゃったか…後で臨時ボーナスでも個人的に出しとくかな。
ジョンは別に良いや。
☆ジョン視点
「おいおい…あそこの当たったとこ…」
「中将閣下のお部屋がある所じゃないですか?」
「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
続きは近日に