ここからが真の始まり?
今回から視点が変わります。
クイーンを紅蓮の炎が抱擁し、周囲に少し香ばしい匂いが漂う。
次の瞬間、炎が爆散してまるで何事も無かったかの様にクイーンが姿を現した。
炎から出て来たクイーンの視界の先には、赤を主体とした防具に身を包んだ巨漢ら五人が唖然とした表情で立ち竦んでいた。
気を取り直してリーダー格と思しき巨漢(…いや、ここは妖精と言おう。)が如何にも重そうなランスの穂先をこちらに向け、楔型隊列を組んで急上昇してきた。
今度はそれに対抗すべくクイーンの後ろにさっきまでいた青年二人が長剣と素手+初期防具で躍り出た。
「……素手…?」
イカロスが素手で飛び出したジョンを見て呟いた。
図体がデカい敵達は地味に速く、重突進さながら己の得物の穂先をバリバリの初期装備(獲物の内一人は素手)の愚か者に突き立てんと狙いを澄ましてさらに加速した。
すれ違いは一瞬だった。
敵のリーダー格の男とその右側の男の眼が驚愕に見開かれ、吐血して、形作っていたポリゴンが儚いサウンドを響かせて砕け散った。
ユウキとジョンは交差する瞬間に敵の必殺の一撃を受け流し、ユウキは長剣を、ジョンは体術スキルで磨き抜かれた拳をお見舞してやったのだ。
あまりにお互いのスピードが出過ぎていたせいもあってか威力に補正が掛かり、相手のHPを吹き飛ばしたのだ。
もうそこからは虐殺と表現しても遜色ない、一方的な狩りが開始された。
と、言っても一瞬でかたが付いたのは言うまでもなかった。
「戦闘終了です。…クイーンさん、大丈夫でした?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない。」
一拍置いてから
「先を急ごう。」
町まであと少しだ。
「やっと着いた~」
ジョンは長時間?の飛行により疲労困憊したようで、アヘアへしながら地面にうっぷしていた。時々クネクネし始めたりするので見ていてウザい。
そして、遂にビクッ!ビクッ!と痙攣を起こして、それっきり動かなくなった。下手したらチーンと効果音が鳴りそうな勢いで、イカロスなんて十字を切った。
いつもの事なのだが、急にシュガバッと起き上がり、
「黄色いお花畑がある河原が見えた…危ない危ない。危うく天に召されてしまう所だったぜ…てかゲームやってて死ぬんか?」
などとすっ呆けた事を抜かしている。
さっきので怯えたイカロスを見たユウキは早速ジョンをボコりにかかった。
ジョンを絶賛ボコり中だったユウキに、向こうから声がかかった。
「二人ともこっちにきてみたまえ!」
二人は取っ組み合いやめた。
「なんだろ。風俗でも見つけたんかな?」
ジョンが再び余計なことを口走るため、拳で黙らせてから引きずる様にと言うか引きずって、クイーンのもとへと向かった。
そこには一軒の武器屋が佇んでいた。
看板には『ギルバートの素敵な武器本舗』と書いてあった。
「こ、これは…」
「なんとネーミングセンスの無い…」
ユウキとジョンがボソリと本音を呟く。
イカロスは重厚な樫?の扉を開けて中に入る。一行はそれに従った。
「ようこそ!ギルバートの素敵な武器本舗へ!」
そう言って迎え入れてくれたのは、どうみてもタ○ミネー○―のシュ○ちゃんのそっくりさんだった…
そんなマッチョな兄貴はイカロスの姿を見つけると、
「おっ!イカロスちゃんじゃないか、そうか、客を連れて来てくれたということだな!」
そう言って、豪快に笑いだす。
ユウキはそんなギルバートに少なからず好感を覚えた。
ユウキ達は陳列棚に並ぶ様々な武器を物色していった。
その品揃えと、サービス開始直後にもかかわらず自分の店を持っている事から、彼がβテスターだということが分かった。どうやらこのゲーム、βテスターのデータを消さない方針を取ったらしい。
ユウキはコーナーの一角にある|《暗器銃》《あんきじゅう》の棚を見た。
そこに一つだけポツンと置かれている暗器銃を手に取った。
そもそも暗器銃とは、簡単に言うと剣に銃を合体させたものだと思ってもらえればいい。
これは中々便利なもので、戦闘中に相手との間合いがひらいている時には銃撃し、近い時はそのまま剣として使える。もちろん柄で切り替える。お互いの短所を長所でカバーしあう、性能で見ればとてもバランスの良い武器である。
by ギルバート
「これは…いいものか?」
そう言いつつも、自分の手にしっくりと馴染むこの武器を買おうか悩み始め、買う事にした。
「ギルバートさん。これ幾らですか?」
カウンターに例の物を置いた。
彼はニタリと笑い、
「こいつは高いぜ…見たところ初心者みたいだが…?」
ユウキの上下装備をしげしげと眺め、再びニタリと笑う。
「問題は無いよ。で、お幾ら?」
「おう、ざっと五百万エギルだ!」
イカロスがピクつく。
無理もない。五百万とは日本円に換算して五十万円と同等の価値を有しているからだ。
このゲームは課金システムがあり、百エギル十円で課金出来る。
「了解。…はい、五百万エギル。」
そう言ってテーブルに黒光りする硬貨を五枚のせた。
この硬貨、アマダン硬貨と言い、硬貨のなかでは一番価値が高く一つ百万エギルの価値がある。
呆気に取られつつも商品をユウキに手渡した。
その時、扉が勢いよく開き、一人の美少女が入店してきてその光景を見た次の瞬間、
「|《決闘》《デゥエル》よ!!」
さあ、少しだけ話が進みました!
次回、何故か急に決闘を申し込まれたユウキの運命はいかに!