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遊園地の異(1)

 こんなウワサがある。

 僕らの学校がある町の隣町には『ラッビットランド』という大型遊園地があった。

 そこにはジェットコースターの事故で死んだ子どもの霊がさまよっていて、遊び相手欲しさにラビットランドにやってきた子どもをさらってしまうのだそうだ。

 これまでラッビットランドで行方不明になった子どもは二十人を越えていて、夜になると「怖いよ……。助けて……」という子どもの声が、どこからともなく聞こえるのだという。


「ひねりのないウワサだよなー」


 カズキが退屈そうに言うので、自分で話しているにも関わらず怯えていた僕も、確かにその通りだと納得してしまう。

 場所はカズキとソウタさんが暮らしているアパートの一室だった。

 例の村での事件があってから、僕は週に何度かこうしてこのアパートに遊びに来るようになっていた。

 アパートに来ては、僕らは異空間についてのウワサを話し合い、実際にウワサの現場に出かけていったりもした。

 アパートには昼間にしか行かなかったので、昼は寝室に引きこもっているというソウタさんとは会わなかった。

 ソウタさんは少し変わった引きこもりで、夜には家の外にも出れるけど、昼は自分の寝室からも出てはこないそうなのだ。

 ちなみにこのアパートには台所と風呂のほかにはリビングと寝室が一部屋ずつしかないから、僕らはリビングで遊ばないといけなかった。


「でもさ、でもさ、話はこれだけで終わらないんだよ」


 さらに僕が続けると、話に興味を失って退屈そうにしていたカズキは、ちょっとうれしそうにこちらを向いた。


「僕らが小学校で毎年行っていた夏の遠足って、どこに行ってたか覚えてる?」

「今話してた、噂のラビットランドだろう?」

「そう。でも今年からは高峯山の登山に変わったらしいんだ。どうしてかっていうとさ、ラッビットランドで本当に行方不明者が出たかららしいんだ。それも遠足に行った隣町のB小学校の子だよ」


 ぼりぼりと頭をかいていたカズキの手が止まった。


「本当に? そんなニュースあってなかったと思うけどな」

「細かいことは知らないけど、同じクラスのエイタ君がB校に通ってる友達から聞いた話らしいよ」


 そういったクラスの友達から流れてくる情報に、カズキは疎かった。友達が少ないというより、友達を作る気が全くないのだ。

 僕の他に友達がほとんどいなくても、寂しくないものなのだろうか。


「友達の友達……ね。FOF――フレンドオブフレンドならそこまで信用できない気がするけど、調べてみるのも面白そうだな」


 そう言うカズキは楽しそうで、僕は彼のそんな顔を見たいからこうしてウワサを探してくるのかもしれなかった。

 もちろんラビットランドに本当に何か隠れているものがあるのなら、僕だって本気でそれを知りたいと思う。


「じゃあ早速ラッビットランドへ……っていきたいところだけど、あいにくの天気だし、まずは情報を集めることにしようぜ」


 外は部屋の中まで音が聞こえるほどのどしゃ降りだった。


「情報を集めるっていうと、B小学校の子に話を聞くの?」


 学校が終わってすぐにカズキの家に来たから、今からバスで隣町のB小学校へ行けば、まだ誰か残っているかもしれない。


「そうだな。でもその前にキョウコに連絡したほうがいい。こういう話に呼ばなかったって分かると、あいつ怒るから」

「キョウコさんか……」」


 僕は雨だから今日は来るなとずっと念じていたけど、カズキのアパートの前でしばらく待っていると赤い傘を差してキョウコさんがやってきた。

 この辺りに住んでいるんだろうか、連絡してまだ十分も経ってないはずだ。


「何こんな雨の日に呼び出してるのよ」


 キョウコさんは色白で整った顔立ちをしていたけど、猫のように大きなつり目をしていて、だからこそ不機嫌な表情が怖いのだ。僕が知る限り、彼女はいつもそんな表情だった。

 キョウコさんはいつものように上下ともに真っ黒の服だった。前髪がパッツンになった長い髪も黒なので、いつも持ち歩いている赤い傘も黒にすればいいのにと思う。

 彼女は同じ小学校の6年生で、一年ほど前にとある事件をキッカケにカズキと知り合ったらしい。

 キョウコさんもいわゆる『異空間シンドローム』だった。でも、彼女が事件に関わるのにはひとつ条件があった。


「ちゃんと霊は出るんでしょうね?」


 キョウコさんは霊感があって、霊が出る空間を探しているらしかった。そういった空間に惹かれるのだ。

 キョウコさんは霊感が強く、晴れの日も赤い傘を持っている黒服美少女として僕らの小学校でも有名で、付いたあだ名は何のひねりもなく『霊能さん』。

 彼女はよく僕のことを怖がらせようと意地の悪いことをするから、僕は霊能さんことキョウコさんが苦手だった。


「それを今から調べに行くんだよ」

「出なかったらタダじゃ済まないわよ」


 僕は背筋がゾクゾクとした。

 バスで隣町まで移動して、その間に例のラビットランドのウワサについてキョウコさんに話した。

 キョウコさんは興味なさげに聞いていたけど、カズキと同じでB小学校で行方不明者が出たと聞くと興味を持ったようだった。

 下校時間から時間が経っているからかB小学校の校門から出る子はほとんどいなかったけど、0人というわけでもなかった。

 僕らはちょうど校門から出てきた、僕とカズキに年が近そうな子に声をかけた。


「あのさ、この小学校で遠足の途中で行方不明になった子がいるって聞いたけど、それほんと?」


 声をかけられた野球帽の子は僕らのことをを怪しむこともなく――といっても彼は僕らも同じ小学校の児童と思っているかもしれない――フレンドリーに答えてくれた。


「もしかしてヨシヒコのことかな?」


 彼のそんな言葉で僕らの期待は一気に高まったけど、野球帽の子は続いてこう言った。


「あれ、でもあいつ行方不明なの?」

「行方不明になったヨシヒコ君……だっけ。その子は遠足でラビットランドに行ったきり行方不明になったんじゃないの?」

「遠足のときは帰りまでいたんだよ。でも次の日からぱったりと学校に来なくなって……それであいつ存在感ないから、クラスのやつらが『遠足のときに帰りのバスに乗ってたっけ?』とか、からかいだしたんだ」


 じろりとカズキとキョウコさんが僕を睨んだ。僕は冷や汗をかきながら、


「でも遠足の翌日から学校に来てないのは確かなんだよね?」

「もう二週間くらい経つけど一回も来てないよ。俺、同じクラスなんだ。プリント届けさせられたことあるけど、家に誰もいないみたいだったな。あいつん家、団地なんだけど、なぜか知らないオッサンが隣から出てきてさ……」

「そ、そうなんだ、ありがとう」


 関係ない話になりそうだったから、僕は慌てて言った。これ以上ウワサと違う話を聞いていると、後からカズキとキョウコさんに何を言われるか分からない。

 一応ヨシヒコ君の家の場所を聞いてから、僕らはその場を離れた。


「これからどうしようか?」


 おずおずと、上目遣いになりながら、僕は二人に聞いた。

 カズキはウワサの真相が違っていても気にしてないみたいだったけど、キョウコさんはまるで親の敵のように僕を睨んでいた。


「とりあえずヨシヒコって子の家に行ってみよう。ラビットランドの噂がデマにせよなんにせよ、遠足の翌日から急に学校に来なくなったっていうのはおかしい。案外こういう関係のなさそうな話が、異空間に通じているもんさ」


 僕ら三人は傘を差し、並んで噂のヨシヒコ君の住む団地へと向かった。

 無個性な小豆色のアパートが立ち並ぶ中のひとつが、教えてもらったヨシヒコ君の家だった。

 五時を過ぎたので、念のためキョウコさんの携帯を借りて家に遅くなると電話をしてから、僕らはその団地のひとつに入った。

 少年から聞いていた401号室の前に立つと、何の話し合いもなく、キョウコさんはためらわずチャイムを押した。


「え、ちょっと……!?」


 誰か出てきたらなんて説明するか、考えているんだろうか?

 僕やカズキに急に振られそうで怖かったから一歩下がって様子を見ることにすると、またキョウコさんに睨まれてしまった。

 しばらく待つけど、誰かが出てくる気配はなかった。痺れを切らしたようにキョウコさんがもう一度チャイムを押すと……

 開いた、隣の部屋の扉が。

 出てきたのは五十前後の髪の薄いオジサンだった。どういうわけか、オジサンは僕らを見つけると、突然顔を真っ赤にして叫んだのだった。


「また来やがったのか。ヨシヒコをあんな目にあわせておいて、よく今さら顔を出せたもんだよ。帰れ、お前らは二度と来んな!」


 突然の出来事に、僕は絶句した。全く意味が分からなかった。

 確かに用事もないのにチャイムは押したけど、どうして訳の分からないオジサンに怒られなきゃいけないんだ。

 助けを求めて左右を見ると、すでにカズキとキョウコさんの逃げた後だったので、僕も慌ててオジサンに背を向けて逃げ出した。


「こら、待て!」


 団地の前まで逃げて、しばらく肩で息をしていると、カズキが大きな声を出した。


「何なんだよ、ってか誰なんだよあのオッサンは!?」

「分からないけど、やっぱりヨシヒコ君にはラビットランドで何かあったんだよ。だってあのオジサンはヨシヒコ君が『あんな目』にあったって言ってたし」

「確かに、可能性は0じゃないな……。よし、次の日曜、ラビットランドに行ってみよう。霊は関係ないかもしれないけど何か分かるかもしれない」


 カズキはちらりと、キョウコさんの方を見た。一緒に来るか、視線でたずねているんだ。


「ここまで付き合ったんだから、最後まで付き合うわ。あの遊園地に妙なウワサが多いのは事実だし。もし何もなかったら、あななたたちは呪われるかもね」


 表情も変えずに、『霊能さん』はそんなことを言った。

 次の日曜日が楽しみなような恐ろしいような、複雑な感じだった。

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