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epilogue

「またその日記書いてるの? それより今、そんな場合じゃないの分かってるよね」


 相変わらずのひらひらとした黒服に身を包み、赤い傘を手でもてあそぶキョウコさんにじとりとした目を向けられて背中を冷や汗が伝うけど、僕は負けじと言い返す。


「これは一応、日記じゃなくて小説ですよ。僕らが入り込んだ異空間を全部記録して発表すれば、きっとカズキも読むだろうし、いつか読み返したときに懐かしいなって思うでしょ。ひょっとすると大金持ちになれるかもしれないですよ」

「だからってこんなときに書かなくてもいいでしょって、キョウコさんは言ってるのよ」


 キョウコさんの反対側から、すぐに僕の言葉への反論が飛んでくる。

 今日は白いワンピースを着て、珍しく赤い髪留めを付けてオシャレをしたユキコさんだった。


「そうやって二人して僕をいじめるんだから……。でもこんなときだからこそ、落ち着きを忘れたりしたらいけないと思うんですよね」

「こんなとき……ね」

「こんなとき……ですね」


 僕ら三人は、並んで座ったまま顔だけを前方に向けると、同時にため息を吐いた。

 ここではもう夜も更けているようだけど、大きな月が辺りを照らしてあまり暗さは感じない。だけど月に妖しく浮かびあがるいくつもの西洋風のお墓と、渇いた土から生えた枝のねじくれた木々が、その光景をかなりまがまがしいものに変えていた。

 墓の向こうには朽ち果てた何基かの風車が並んでいるのが見え、そこが僕らの知る世界とは違う世界だということを、僕はあらためて感じるのだった。

 どうしてこんなことになったのか――。僕らはキョウコさんが仕入れてきたという、このところ中学校で流行っている、相手に不幸を届ける黒魔術について調べていただけなのに……。

 ここは紛れもなく異空間だった。

 新しく加わったユキコさんも含め、僕らはまだ異空間に強く惹きつけられ、離れられないみたいだった。

 解散したはずの異空間シンドロームを勝手にもう一度立ち上げて、カズキには悪いと思うし、ここにカズキがいないのは寂しいと思う。だけど僕はまだまだ遊び足りない。異空間に隠されたあらゆるものたちは、いつだってそこで見つけられるのを待っているはずなんだ。


「さぁリーダー、そろそろ行きましょうよ。どうにかしてここから出る方法を調べないと」

「大丈夫、ユウ君ならきっとここから出る方法も見つけられるよ」


 二人の言葉に苦笑して、ぼりぼりと頭をかきながら僕は立ち上がる。キョウコさんとユキコさんも僕の後ろに立ち、僕らは道なき道を並んで歩き出した。


「じゃあ、行きましょうか!」



 この世界にはいたるところに、『異空間』が存在している。

 異空間っていうのはつまり、常識的に考えてそこにあるはずのない、常軌を逸した場所っていうことだ。

 それは誰からも見向きもされない繁華街の汚いアパートの一室に、忘れさられた廃病院に、閑静な住宅街の一角に、そして……。








 Strange Story END.

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