少女の異(2)
「なんでだよ! 霊能力者とテレビクルーの、合わせて四人が魔法みたいに消えちゃったんだよ。どこもこの話ばかりだし、ここ事件に頭を突っ込まないでいつ突っ込むのさ!?」
「俺は別に頭を突っ込みたいんじゃなくて、そこに隠されているものを知りたいだけだし……今回は危険だ。だって俺たちだって同じように消えちゃうかもしれないぜ」
何度言っても、何を言ってもムダだった。
カズキの家に泊まりに来てから、こうして何度も説得しているけど、カズキはあくまでこの件に関わる気はないようだった。
式無常がテレビクルーとともに姿を消したのは、つい二日前のことだ。
僕が学校から帰ってテレビを点けると、
「番組を取材中のテレビスタッフ数名と連絡がつかない状態が続いており、事件に巻き込まれた可能性が……」
と、ワイドショーで興奮した様子のアナウンサーが伝えていた。
その数名こそが、式無常と、式無常の出る番組の制作を担当しているテレビクルーたちだった。
佐藤友香が神隠しにあっていたという仮説を元に、佐藤友香本人に取材に行ったきり連絡がつかなくなったらしい。
一人の目撃者もいない中、佐藤友香に疑いの目を向けられるのは必然だった。
でも、警察は彼女に簡単に事情を聞いただけで、すぐに彼女を放免したらしい。
それはそうだ。何の手がかりもない今の状況では、誰にも何が起こったのか分からないのだ。被害者たちが現在どこにいるのかすら。
それから二日。こうしてカズキの家に泊まりにくるまで、もちろん式無常も三人のテレビクルーも見つかっていなかった。
「どうして今回はそんなに乗り気じゃないの? いつもだったら飛びつくようなネタなのにさ」
「別に……理由なんてないさ」
この件に興味がないだけじゃなく、カズキは何だか機嫌が悪いようだった。
それから僕は意識的にその話題を避け、カズキと一緒にお風呂に入るとウイニングイレブンで盛り上がり、二時過ぎにリビングに敷いた布団に入った。
目が覚めたのは四時過ぎだった。正確には、揺すり起こされたのは。
暗がりの中で目をあけると、大きな体から伸びた手が僕の肩を揺すっていた。トトロが迎えに来たのかと思ったけど、それはソウタさんだった。
カズキの兄であるソウタさんは唇に指を当てたまま、手招きして僕に自分の寝室まで来るよう促した。横の布団に目をやるとカズキはぐっすり眠っているようだった。
「どうしたんですか、こんな時間に?」
目をしょぼしょぼさせたまま、僕はソウタさんが引きこもっているという寝室でソウタさんと向かい合った。部屋は僕の想像と違い、きちんと整理されているようだった。
昼間、ソウタさんは部屋から出てこないので、ソウタさんと直接会うのは例の村から脱出するときに初めて会って以来だった。
ソウタさんはあれからまた太ったようで、顔にはさまったメガネがきつそうだった。
「実はカズキに内緒で、ユウ君に相談があるのだよ」
ちょっともったいぶった口調で、ソウタさんは言った。
「はぁ……」
僕は早く布団に戻りたくてそんな返事をしたけど、次のソウタさんの一言で完全に目が覚めた。
「ユウ君に例の『神隠し少女』、佐藤友香の調査をしてもらいたいんだ」
ソウタさんの目的は分からないけど、僕にとっては願ってもいないお願いだった。
引きこもりで行動に制限の多いソウタさんがこうして僕に頼むのは分かるけど、ひとつだけ疑問点もあった。
「どうしてカズキに頼まないんですか? それにわざわざこんな風に内緒にしなくても……」
確かに今回は乗り気ではないけど、まず弟のカズキに頼むのが普通な気がした。深夜に自分の部屋に僕だけを呼び出してまで、カズキに隠す理由が分からない。
「ちょっと事情があって、カズキは今回の件に関わりたくないらしいんだ。危険があるかもしれないし、僕も十分サポートできないかもしれないけど……今回はユウ君だけに頼まれてもらいたい。もちろん報酬も支払うよ。デュエルモンスターズのレアカードでも幻のポケモンでも、何でも言ってくれよ!」
「……はい! 僕でよければ」
考えるまでもなく、僕は即答していた。もちろん幻のポケモンなんかに釣られたわけじゃない。僕は自分の好奇心に素直になっただけだ。
ソウタさんがふっくらとした手を出したので、僕はその手をぐっと握った。
カズキには悪いけど、僕はどうしても隠された真実を知りたかった。
「じゃあ細かい打ち合わせだけど――」
それから朝になるまで、僕とソウタさんはこれからの行動について話し合った。
まず僕は何でもいいから佐藤友香についての噂を集め、それから佐藤友香の知り合いに聞き込みをし、最終的に彼女を尾行することに決まった。
まるで探偵のようじゃないか、僕はすごく興奮した。
問題はソウタさんとの連絡手段だった。ソウタさんは携帯を持ってないし、自宅にかかってくる固定電話は全部カズキが取っているらしい。
ソウタさんはこの神隠しについて探っていることすら、どうしてもカズキに秘密にしたいようだ。
結局、その点に関しては僕が小学校の公衆電話から昼間にソウタさんに電話する方法に決まった。
「それじゃあ、打ち合わせはこのくらいにしておこう」
夜が明ける前に、目を真っ赤にした僕はカズキの隣のベッドに戻った。
翌週から早速、僕の佐藤友香と神隠しについての調査がはじまることになった。