少女の異(1)
夏が過ぎ、秋になった。
僕らの住む町では、ひとつの大きな事件が起きた。事の発端は二年前のことだ。
僕と同じ町に住んでいた、当時中学一年生だった女の子が、突然、姿を消した。
複雑な家庭の事情はあったらしいけど、まじめな子で家出の気配もなく、何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとされた。
平和なだけが取り柄のこの町で起きた唐突な出来事だったので、町の話題は一時そのことで持ちきりになった。
地方版のニュース番組でも、特集を組まれているのを見たのを覚えている。僕がまだ小学2年生の頃だ。
家族から失踪届けが出されたので警察も捜査をはじめ、少女に関するいくつものウワサがそこかしこで飛び交った。男と一緒にいるのを見たとか、高架下にうずくまっていたとか、そういった種類の。
だが少女が見つかることはなかった。信頼のおける目撃情報すら、ひとつも出てはこなかった。
この町の多くの人が、少女はどこかで既に死んでいるだろうと思っていたけど、あれから二年がたち、今月になって少女が見つかった。
奇妙なことに、少女は二年前に失踪したときとおなじ服装で、二年前から『全く成長していないように』見えた。
「二年間、行方不明となっていた佐藤友香さんが、突如として発見された今回の事件。少女が二年前と同じ服装で発見された点や、二年間の記憶がないと証言している点など、多くの謎が残されています。いったい少女は二年間、どこで何をしていたのでしょうか?」
場所はカズキとソウタさんが二人で暮らすアパートのリビング。
僕とカズキは真剣に、そのワイドショーが流れるテレビ画面を見つめていた。
「現代の神隠しとも言われるこの事件、警察関係者は事件性は薄いと発表しており、事件の真相解明のため、著名な霊能力者が少女に接触するとの情報もあります。さて、次の話題ですが……」
話題が移ったので、カズキはテレビのチャンネルを変えた。
きっとカズキは僕と同じように、この謎を解明したくてたまらないんだろうと思ったけど、そういうわけでもないようで、
「今のワイドショーであおってた霊能力者って、最近よくテレビに出てる式無常とかいうインチキ霊能者らしいぜ」と言って笑った。
「インチキ霊能者のことはいいから、いつもみたいに僕らでこの謎を解明するんじゃないの? この事件には絶対に異空間が絡んでると思うんだけど……」
でもカズキがここまで興味を持たないなら違うのかもしれない。僕は自分の意見に自信を持てなかった。
「何で俺たちが! どうせこいつも家出とか駆け落ちとか、そういうのだよ」
「でも二年前と同じ服だったんだよ。それに、二年間の記憶がないって」
僕は言うけど、カズキはめんどくさそうに頭をかきながら、
「服装は物持ちがいいヤツは二年くらい同じものを着るし、本人の記憶なんていくらでも嘘が言えるよ」
あくまでも、カズキは関わる気がないようだった。
僕は一人でも調査に乗り出したかったけど、カズキとソウタさんなしで出来ることなんて高が知れていた。
僕は携帯もパソコンも持ってない。佐藤友香の通っている中学校さえ、自分で調べることができないんだ。霊が関係していると確定するまで、キョウコさんも興味を持ちはしないだろう。
「絶対に異空間が見つかると思うけどな……」
結局、その日は次の連休にカズキの家に泊まりに来る約束をして家に帰った。
そして、その連休の直前に信じられないような出来事が起きた。
失踪していた少女に突撃取材を試みた式無常という霊能力者と、式無常が出演している番組のスタッフが一斉に失踪したのだった。
これでカズキも異空間の存在を認めるはずだ。不謹慎ながらも僕はそう確信していたけど、僕の予想は外れてなぜだかそうはならなかった。