Prologue
この物語はフィクションです。
この物語には一部過激な描写があります。
この物語に出るような異空間がどこにも存在しないとは言い切れません。
これから書く話はすべて、本当にあったことだ。
話の中ではおよそ現実では考えられないような出来事が起こるだろうし、人間が出てくるだろうし、空間が存在してるだろう。
まるで笑えない冗談みたいにさ。
でも、どんな信じられないような物語も、それは実際にあったことなんだ。
なぜなら『僕ら』はそれをこの目で見、この耳で聞き、この身をもって体験したんだから。
ハッキリと言おう。
この世界にはいたるところに、『異空間』が存在している。
異空間っていうのはつまり、常識的に考えてそこにあるはずのない、常軌を逸した場所っていうことだ。
誰からも見向きもされない繁華街の汚いアパートの一室に、忘れさられた廃病院に、閑静な住宅街の一角に……。
それはどこにでも、本当に誰の気にもとまらないような場所に存在し、そのくせ僕らを惹きつけて離さなかった。
たとえ何度、命を危険にさらしたとしても。
「僕たちはさ、どうしてあんな危ない目にあいながらも、懲りずに異空間を探すんだろうね?」
こうして文章を書く僕の隣にいた少年は、読んでいた本から顔をあげると、「たぶん、間違いさがしだよ」と言った。
その少年は僕と一緒に、もう何度も異空間に入り込んでいるパートナーだった。
「間違いさがし?」
少年はめんどくさそうに頭をかくと、読んでいた本を閉じて表紙を僕に向けた。
『まちがいさがし 小学4年生』とある。
表紙には鏡写しになって、同じような二つのイラストにいくつかの違いがある、いわゆる間違いさがしが載っていた。
間違いさがしを紹介するブサイクなキャラクターは、ふきだしの中で「ぜんぶ見つけられるかな?』とまるで僕をバカにしてるみたいだった。
4つだ。僕はすぐに二人のイラストの間違いを見つけてやる。いや6つかな?
「こんなふうに、日常の中に間違いを隠した人間がしたり顔で生活してると思うと、見つけて、何が隠れてるのかを知りたくなるじゃん。特に、俺らみたいなひねくれ者は」
「なるほど」僕は感心して頷いた。
「今まで入り込んできた異空間を記録するって言ってたけど、もちろんあの一件からなんだろ?」
「もちろんだよ」
僕が答えると少年はうれしそうに、また間違いさがしに熱中しはじめた。
僕らの物語のはじまりは、あの事件をおいて他にない。
思い出すだけで気分が悪くなる、あの夜の他にはさ。