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 「おおおおおおおおおおおおっ!」

 どちらともなく雄叫びを上げる。ゲイルは内燃氣環をフル稼働させ、サムに送り込むエネルギーをできるだけ高める。サムはゲイルから流れ込んできたエネルギーを増幅させ、ありったけをバーニアに突っ込む。

 生産と増幅を繰り返し、蓄積を重ねたエネルギーが解き放たれる。だがノズルに入り込んだ細胞体の組織が噴射をせき止め、行き場を失った膨大なエネルギーが逆流しようとするが、後がつかえてどんどん詰まっていく。瞬く間に満タンになったバーニアのノズルは、濃縮されたエネルギーの貯蔵庫となっている。そして容量を無視して流れ込むエネルギーによって爆発した。

 内部からの爆発によって、体細胞が弾け飛ぶ。その一瞬の隙間を縫って、サムはゲイルを強制射出した。

 機体から脱出するパイロットのように、サムの中から放り出されたゲイルは、爆発と射出の勢いを足したわりにはゆったりとした流れでジークレイに向かって飛んでいた。

 だがゆっくりであるがために、シールドも何もない無防備なゲイルの体は、まともに体液の侵食に晒されていた。せめてスーツのナノマシンが機能していれば、まだ侵食の速度も緩和されるであろうが、それすらないゲイルの体は火に放り込まれた普通の人間のようにただれていった。

 「ぐあああああ……っ!」

 苦痛の声を上げるが、目は決して目標から反らさない。瞬きもせず、ジークレイの頭部を睨みつける。

 歯を食いしばり、手を伸ばす。その時、近づくのに気づいたジークレイがこちらを見た。

 「無駄な足掻きを」

 生首のように浮かびながら、ジークレイはゲイルを見て嘲笑する。体液の中、声が聞こえるのは彼がわざとそう操作しているからなのか。だとしたら趣味が悪い。

 生首の蔑むような視線にも耐え、ゲイルは必死で手を伸ばす。だがあと少しで指先が触れるというところで体が止まった。推進力を持たないゲイルには、泳ぐしか進む道はない。ジークレイはそれを見越して体液の濃度を調整していたのだ。

 「くはははははっ、惜しかったな。どれだけ大きなエネルギーを持とうが、それを活かせる肉体を持たねば宝の持ち腐れよ。内燃氣環など所詮、ひ弱な人間を強化するだけの補助動力に過ぎん。真のエネルギーというのは、私のように肉体そのものを改革するものを言うのだ」

 器用に顔を巡らせ、ジークレイはゲイルの鼻先で嗤う。手が届かないのをいい事に、ゲイルの悔しがる顔を見て悦に浸っている。恨めしそうに睨むゲイルの視線ですら、彼には心地良く感じられるのだろう。

 「あのS・A・Mと一緒に、貴様もこのままじわじわと私の中に取り込んでくれる。完全に溶けきるまで、せいぜい悔しがっておれ」

 ジークレイは大声で笑う。見下した目と耳につく笑い声に、ゲイルは奥歯を噛み締める。

 だがふっと口元が弛んだかと思うと、今度はジークレイに負けずとも劣らない大声で笑い出した。

 「な、何だ? とうとうおかしくなりよったか?」

 げらげらと愉快そうに笑っているゲイルを、ジークレイは不気味に思う。笑っている間にもゲイルのスーツは溶けて穴が開き、皮膚が火傷のようにただれていく。迫り来る死の恐怖に、精神が崩壊したのだろうか。

 「ああ、おかしいさ。おかしくって笑いが止まらねえ」

 突如笑い声が止まる。一転して冷ややかな目つきと口調に変わったゲイルは、ゆっくりと右手を腰のポーチに差し込む。

 「お前の体液はなかなかの粘度だ。さすがの俺でもこの中では自由に動くことはできねえ」

 「それがどうした? もはや貴様には私をその自慢の拳で殴る事も、我が体内から逃げ出す事もできんぞ」

 「いいんだよ、ここまで近づければ」

 にやりと笑いながら、ゲイルはポーチから右手を引き抜く。ジークレイの眼前に差し出された手には、虹色に輝くクリスタルが握られていた。

 「そ、それは……!」

 「見覚えあるか? てめえが怪物を作る時に埋め込んだ核――惑星エネルギーを凝縮した塊だ」

 ゲイルが軽く手に力を込めただけで、クリスタルに小さなヒビが入った。その様子にジークレイはこれまでの余裕が嘘みたいに慌てだした。

 「ば、馬鹿者。貴様、それを爆発させたらいったいどうなるか解かっておるのか?」

 「ああ、てめえのその汚いツラが吹っ飛ぶ。それ以外に何かあるか?」

 「ききき、貴様だって無事では済まんぞ」

 早口にまくし立てるジークレイだが、ゲイルは何だそんな事かと鼻で笑う。

 「だからどうした? 俺の心配をするよりも、自分の心配をしろよ」

 自分の命をかけて相打ちを狙っているというのに、ゲイルの言葉には何一つ焦りや緊張はない。殉教者のような冷えた目に、ジークレイは言葉にならない恐怖を感じて小さく悲鳴を漏らす。

 「何故だ! どうしてお前は平然としている。死ぬのが怖くないのか!?」

 「死ぬ気なんてさらっさらねえよ。特にお前みたいないかれたおっさんと一緒なんて、ご免こうむるぜ」

 「だったら――」

 「だがな、てめえみたいな外道をのさばらせるくらいなら、こうしたほうがマシだって思っちまったんだよ」

 「な…………」

 絶句するジークレイをよそに、ゲイルはゆっくりと握った手に力を込めた。

 「待て! 待ってく――」

 「あばよ、マッドサイエンティスト。あの世でジャガイモの澱粉でも濾過してろ」

 皮肉たっぷりの貌でそう言うと、ゲイルはクリスタルを握り潰した。

 次の瞬間、ゲイルとジークレイは壮絶な光の津波に飲み込まれ、肉の塊の中が一瞬で沸騰したように泡立った。

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