24
待ち構えるは、約三万の怪物。それに一歩、また一歩と近づく二人の間には、さぞ張り詰めた空気が流れているかと思いきや――
「ところでサム。こんな骨董品、いったいどこから調達して来たんだ? たしか特務捜査課の武器庫には、こんなのなかっただろ」
肩に担いだ銃をひょいと持ち上げるゲイルに、サムは含み笑いをして「知りたいですか?」ともったいぶった言い方をする。
「なんだよ、言えよ」
「ダラズ・ウェストパック課長殿の個人的な蒐集物から、無断で失敬してきたんですよ」
サムがとんでもない事を暴露するや否や、ゲイルは高らかに笑い出した。
「あいつの私物をちょろまかして来たのか? おまえ最高だな!」
愉快痛快極まりないといった感じで、ゲイルはサムの背中をバシバシ叩く。
いくらゲイルたちには骨董品でも、この惑星の科学力では明らかな過剰技術だ。本来任務で使用する火器や道具を已む無く破棄する場合は、原型を留めないほど破壊しなければならない。そうしないと原住民に身の丈以上の技術を与える可能性があるからだ。しかしいくら緊急事態とは言え、装備や武器を破棄すると始末書が下るのだが、今回は話が違う。むしろここで使い潰して、粗大ゴミにしてしまっていいのだ。
「しかも押収した証拠品の横流しですから、盗難にあっても表沙汰にできませんしね。まあ彼のような蒐集家の手元で埃を被るより、我々が有効活用してあげたほうが銃も喜ぶでしょう」
「そうだな。最後に使って供養してやるのが、せめてもの情けってやつだ」
「物は使ってこそですからね」
「違いねえ。だがお前も手癖が悪いな」
「貴方の相棒ですから」
「ハッ、それも違いねえ」
――思い切りピクニック気分で楽しく雑談していた。
いくら並外れた破壊力の武器を装備しているとはいえ、この余裕はいったいどこから湧いてくるのだろうか。
圧倒的な数の怪物を相手にするという恐怖や、絶望的な現実が彼らに現実逃避をさせているわけではない。彼らはこれまでも、こんな感じで飄々と気軽に、まるで近所にふらっと散歩に行く感覚で戦場を渡り歩いてきた。そしてこれからも、彼らが本来の目的を果たすまで、こうやって鼻歌まじりに死地を歩いていくだろう。
何故なら、彼らは知っているからだ。
この程度の修羅場など、修羅場と呼ぶに値しない事を。
彼らが行く先には、こんな怪物たちなど比較にならない悪鬼羅刹が待っている事を。
そして自分たちがそんなものになど負けない、この宇宙で最強の存在だという事を。
その揺るぎない自信と覚悟があるから、たとえ視界が埋め尽くされるほどの怪物が、今まさに自分たちに向かって来ていようが、まったく焦りも怯みもなく、あたかも自分の家の玄関から外に出るように一歩を踏み出せる。
ゲイルが肩に担いだ銃を構える。安全装置を解除し、設定は勿論フルオート。秒間十発の咆哮を上げる野獣の鎖を解き放つ。
「サム、火器管制解除《FCS》。目標の左翼を集中攻撃。俺は右翼を叩く」
「了解」
サムが応答すると同時に、両手に持ったガトリング砲の砲身が勢いよく回転を始める。
毎分六千発の、鉛弾という死の宣告を届ける死神が二門。荒野を血の海に変える地獄の使徒が、唸りを上げて引き金を引かれるのを待ちわびる。
「さあ、害虫駆除の始まりだ」
我――最強なり。
地響きを鳴らして迫る怪物たちの怒涛に、ゲイルの声がかき消される。
それはまるで、この戦いの幕開けを告げるブザーのようだった。