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episode3【だが、このとき彼らは気付いていなかった。これが3人で交わした最後の笑みだということに――(仮)】


〜4月20日・PM14'21〜


聖side



「…【契約者】」




【契約者】その言葉だけで理事長室にかつてないほどの緊張感が漂う。


それほど【契約者】という言葉には大きな意味があるのだ。




「…なるほどさね。契約者となると本当に私達では手に負えなくなってきたさね」


「そうね蓮。教師には契約者はいないから…残念だけど私達には本当に何もできないわ…」


「フー…だがこれで俺達。特殊事件捜査犯係が動く理由ができた。もうこの事件はただの事件じゃない…契約者による特殊事件ということだな…」


「そうね。ここまで来たらもう上の方も放ってはおかないでしょうからね…もしかしたらあたし達が担当することになるかもしれないわね…」




大人達がそれぞれ真剣な面もちで話し合う。そんな様子を子供である俺達はそれぞれ傍観していた。


かくうえ俺もずっと湊と手をつなぎソファーに座ったままである。ときどき落ち着かせるために抱き寄せた湊の頭を撫でたりしながら大人達の様子を見続けていた。




「…セイ君?」




心配そうに俺に言葉を投げかける奏。俺は彼女の少し怯えた視線に応ずるように微笑むと、息を大きく吸い込んだ。




「兄貴。葵ねえちゃん。学園長。藍先生。過去のことを話し合うのもいいけど、問題はこれからどうするかじゃないか?」




俺の声はなぜか部屋中に響き渡る。そして部屋にいたもの全員が俺へと目を向けるのだった。




「フー…聖。確かにそうだが俺達は刑事だ。過去に起こったことを基に事件を捜査する。それが刑事ってものだろう?」


「兄貴。俺はそれを間違ってるとは思わないし、否定もしない。だけど――」




そこまで言うと俺は隣にいる奏を抱き寄せる。突然のことに奏も、周りの奴らも驚いた表情になる。だが、そんなの関係ない。


これは…これだけは絶対に忘れてはいけない大前提だから――




「だけど…忘れるなよ。奏でだって、杏だって、平等院さんだって――女の子なんだぞ?」


『『…………』』




奏だけじゃない。杏も平等院さんも俺の言葉にポカーンとした表情になる。それだけじゃない。凉も兄貴も葵ねぇちゃんも藍先生も理事長も…。


俺の言葉に唖然としてしまっていた。




「…聖。それはいったいどういう意味だ?」




最初に反応したのは兄弟のなせる技か?兄貴だった。でもそれはどういうことだって…。おいおい兄貴。まさか気付いてないのか?


今回の被害者…そいつらに共通する共通点。それに今回俺達だけじゃなく、奏達が呼ばれた真の理由を…。


俺は兄貴の言葉を流すとある人物を見据える。その人物は――




「理事長。もうお話してもいいんじゃないんですか?ここに俺達だけじゃなく、奏と杏、平等院さんを呼んだ理由を――」




俺の言葉に理事長が静かに俺を見据える。だが、俺はその視線を真っ向から対峙する形で見つめ返す。そして、理事長は俺の瞳に落ちるのだった。




「はぁ…さすがさね、あんたをここに呼んだのはやはり正解だったさね…」


「あの…理事長?綾瀬川の言ってることはどういうことですか…?」




諦めたように溜め息を吐く理事長に平等院さんは詰め寄るように尋ねる。


今、この場で俺の言葉を真に理解しているのは、おそらく凉と兄貴くらいだと思う。その表情を見れば分かった。息苦しそうな…辛いような…そんな表情。


だが、敢えて2人の表情の共通点を挙げるとすれば、それは女子高生の3人から目を離しているということ。なぜなら――




「平等院さん。あなたと奏。それに杏が学校でなんと呼ばれているか知っていますか?」


「は?そんなことは今は関係がないだろ?第一、私は今、理事長に聞いてるのだ。貴様には何も――」


「いいから応えろ。平等院鞘」




少しだけ、少しだけ昼ではなく夜の俺の感情を込めた声に、平等院さんはピクリと体を震わす。


唇をかみ、一歩後ずさる彼女を俺はただ見つめ続けた。突然変わった俺の雰囲気に周囲が息をのむのがわかる。その空気の中、彼女は応えた。己の現状を――




「…【三大…美女…】」




その言葉に葵ねーちゃんと杏の顔つきが変わった。どうやら気付いたみたいだな…。理事長が彼女達を呼んだ本当の理由が――




「そうだ。平等院鞘。お前を含めたここにいる3人は学校で最も美しいとされている美少女。男の欲求は醜いものだろ?」


「…綾瀬川聖。なにがいいたい?」


「三大美女。いったい誰がこんな言葉を創ったんだろうな…。女の子を見定めて、格付けして、選別する。こんなことするのは誰だと思う?異性。つまり男に決まってる」


「…そうだな。貴様が言っていることは正しい。だから何だと――」


「男ってのはなぁ…。美しいものに惹かれるんだよ。それは女だって同じだから分からなくもないだろ?男なら誰だって夢を見る。美少女と手を繋いで…美少女とデートして…美少女とキスして…そして美少女を――抱きたくなる」


「………」




俺の真っ直ぐな言葉に平等院さんが固まる。つまりそういうことだ。


俺が言いたいことが分かったのか、平等院さんの表情が暗くなる。そんな彼女に俺は優しく語りかける。今できる最高の表情で――




「平等院さん。男だって…好きな女を抱きたいんだ。美少女を抱きたいんだ。そのことを知っておいてほしい。これは決して男尊女卑なんかじゃない。でも言っておく。女は男よりも“弱いんだ”」

「…っ!?そんなこと――」




平等院さんの言葉は後ろからきた人物により途切れてしまう。その人物は――




「…東雲凉。何をする」




俺の親友の1人であり、街で最強と謳われる東雲凉であった。そんな彼の右手は平等院さんの肩にかけられている。俺は凉に向かって、ゆっくりと…黙って頷いた。


そして、凉も俺と同じく黙って頷き返した。




「…平等院さん。落ち着いてください。聖は――理事長はあなたと奏さん、杏さんにこう言いたいんです。“次に狙われるのはあなた達かもしれない”とね…」




凉の言葉に俺の腕から解放され、落ちついて話を聞いていた奏の体がピクリとふるわされる。そして杏も微動だにしてないとはいえ、きっと内心では落ち着いていないと思う。


その中で、最初に声を出したのはやはり平等院さんであった。




「…そんなバカな!?私を誰だと思ってる!?私は五大領家の1つ。炎の平等院家の者だぞ!?そんなことして許されるはずがない!?」


「――残念ながら平等院鞘。その認識は間違ってる。凉」


「――はい」




俺の声に応える凉。そして、その刹那、平等院さんの肩に置かれていた凉の右手が一気に彼女の両手を絞めた。




――ギュッゥゥゥ…!!




「ぐっ!?何をする!?東雲凉!?」


「ちょ…ちょっと東雲君。いくら何でもやりすぎよ!?」




突然の出来事に俺達の担任藍先生が慌てて凉と平等院さんのもとへ駆け寄ろうとした。だが、その行き先は止められてしまう。


誰も手はもちろん、言葉でも止めようとしてないのに藍先生の足が止まる。なぜなら、藍先生は蛇ににらまれたかのように硬直してしまったからだ。




「聖…」


「セイ君…?」




俺の刺すような視線の前に。奏と杏がまるで鬼でも見たかのような目で俺を見る。まぁ当然だ。なんせ学校の――昼間の俺がこんな目で人を見るなんてまずない。それが、昼間の俺だからだ。


だけど…こいつに関してだけは非情にならなければいけない。こいつだけは…こいつだけは…な。




「平等院鞘。分かったか。これが男と女の力の差だ。確かにお前の契約能力はすごい。だけど、忘れるな。お前は女だと言うことを…」


「…ぐっ!?離せっ!?」




冷たく言い放つ俺の言葉に平等院さんは慌てたように凉の手から逃れようとする。だが、凉の手から逃れることはできない。


これが、今の彼女の力だった。




「…凉。離してやれ」


「分かりました。聖」




俺の言葉に凉はやっと、その手を離す。




「…っ!?無礼者!!貴様…何をしたか分かっているのか!?」




凉の手から逃れた平等院さんは、そのまま凉や俺から距離をとる。その素早い動きには感心するけど、捕まったら終わりだ。


彼女は確かに強い。精神的にも肉体的にも、彼女の強さは一目おくだけある。だが、彼女は根本的なことがわかってない。根本的なことを――




「平等院鞘。お前は俺達とは違う。たぶん、犯人がこの中で狙うとしたら…あんただ」




だから俺は敢えて彼女を突き放す。彼女にわかってもらうために…。彼女を守るために…。


これが、俺と凉にできる罪滅ぼしだから――




「…ふん。何を言うかと思えばバカバカしい。貴様は私を誰だと思っているんだ綾瀬川聖。私は平等院家。5大領家最強の一族の一員だ。貴様等に指図される覚えはない」


「…そうか」




平等院さんの言葉に、俺はゆっくりと目を閉じた。浮かんでくるのはあいつの顔。なぁ(アクア)俺は間違えなかったよな?これで…よかったんだよな?


俺の心の中の言葉に、思い浮かべたあいつが微笑んだ気がした。




「…みなさん。悪いが私は気分が悪くなってしまいました。失礼だと思いますが、私はこれで失礼させていただきたい」


「あ…あぁ分かったさね。じゃあ今日からよろしく頼むさねよ…」


「はい理事長。それでは失礼させていただきます」




突然の申し出にも関わらず、理事長は平等院さんの言葉を聞き入れる。そして平等院さんは、兄貴達に一礼すると、足早にこの場を去ってく。


俺と凉には、決して目を合わせようとしない。俺達もそれを承知の上でやったんだから仕方ないけどな…。


そして、平等院さんは理事長を出て行った。




――バタンッ…




理事長室の扉が閉まる音がこだまする。それと、同時に理事長全体に流れていた重たい空気が一気に崩壊した。


俺と凉以外の人間が、深く息を吐き出す。その中で、俺と凉だけが黙って平等院さんが出て行った扉を見つめ続けていた。






鞘side



「なんたる侮辱だ。今まであんな辱めを受けたことがない」




理事長を出た私は早足で教室への道を歩いていく。昼休みが残りわずかだというのもあるが、何よりも私は早くあの場所から離れたかった。


風紀委員として、あの2人――綾瀬川聖と東雲凉は最も警戒すべき対象である。その対象に、力で負けただけでなく忠告されるなんて…。




「あいつら…絶対に…絶対に…許さない…」


「委員長。理事長室でのお話、如何でした?」


「…む。【小笠原】か」




私が堅く意志を固めていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。私の右腕だ。だが、私はその声に歩みを止めるつもりはなかった。なぜなら私の後を彼がついてくると知っているからだ。


だから、私は歩みを止めず、そのまま彼の声に答えるのだった。




「ふん。見てわからんか小笠原。つまらん会議だった。しかも呼び出されたメンバーは最悪。私はあれほど醜い会議を見たことはない」


「それはお気の毒様でした委員会。お疲れ様です」




本当に気の毒そうな彼の声。それだけで私の気がおさまることはない。だがしかしここで彼に八つ当たりしたところで現状が変わるわけではない。だから私は猛る気持ちを押さえつけ、歩みを止めゆっくり後ろを振り返った。




「…小笠原。少し頼みがある。私の話を聞いてはくれないだろうか?」


「…はい。わたくしはあなた様に使える身。あなた様の願いとあらばどのようなことをしてでも叶えてみせます委員長…いえ…我が主【鞘様】」




彼の名前は【小笠原豊(オガサワラユタカ)】風紀委員会の副委員長にして…私専属の執事。


私は彼を全面的に信頼している。嘗て、私がすべての光を失ったときも彼はいつも側にいてくれた。そんな彼だからこそ…私は絶対的な信用を置いている。


なぜなら彼は今の私の光。私を照らし出してくれる太陽の光だからである――




「…感謝する小笠原。では、聴いてくれ。実はな――」






???side



「…ねぇセイ君。なんで鞘ちゃんにあんなキツい言い方したの??」




時は変わって放課後。夕日が傾く学校にて、生徒会長の白草奏が幼なじみの少年、そう綾瀬川聖に問い掛ける。


赤みがかり誰もいない教室の中、近くには聖の親友である凉も耳に付けたイヤフォンで音楽プレイヤーを付けた状態で近くの席に腰掛けている。


ここ最近は杏を含めた4人で一緒に帰るようにしている。例の事件のせいだ。CROSS-ROADの奏や杏がそこらの契約者に負けるとは思わないが万が一という場合がある。それをふまえた上での行動だった。




「……」




奏の言葉が予想外だったのか、はたまた予想していたからか、聖は自分の席に深く腰掛けながらその言葉に無言で応える。


その応えに奏は不満だったのか、その柔らかそうな頬をまるでリスのようにふっくらと膨らませた。




「む〜…セイ君。私の話ちゃんと聴いてるの!?」




奏の可愛らしい仕草。その自分起こってるんだよアピールにに聖は思わず吹き出したくなる心情を抑えて、未だに頬を膨らませる奏に優しい笑みを浮かべた。




「あぁ。ちゃんと聴いてるよ“カナちゃん”」


「はぇっ///」




突然の事態に奏は頬を膨らませていた空気を一気に抜いてしまう。きっと顔の赤みは夕日のせいだけではないだろう。


さっきと合わせたその可愛らしい仕草に、聖は再びクスリと笑みを浮かべると彼女の顔以上に赤みがかった髪を優しく撫でる。彼女の表情。彼女の仕草。彼女の行動。彼女の笑顔。それを見るのが彼の生きがいだった――




「奏。俺は“あいつ”みたいにお前を守ることができるか分からない。だけど俺は約束する。奏。お前を守り続けることをな…」




密かに決意を固め、そう口にする聖。だがそれとは裏腹に髪を撫でられている奏は顔の赤みが増えるばかり。すでに彼女の視線は聖を直視することはできない。


ただ、聖になされるがままの奏。だけどその居心地のいい空間を抜け出そうという気はない。結果、奏は無言で髪を撫でられ続けるのだった。




「………」




教室の中にはサラサラと髪を撫でる音が響くのみ。イヤフォンから漏れた音楽の音も、聞こえてはこなかった――




――ガラガラッ…!!




「ハローンみんな。おまた…あぁ、なんかごめんなさい」




――ガラガラッ…!!




一瞬だけドアを開いて教室へと現れた杏。だが、場の空気を感じたのか、そのまま何もなかったようにドアを閉める。さすが杏ちゃん。空気が読める偉い子です。




「はぁ…やれやれ、杏のやつ。いったいどうしちまったんだろうな…??」


「そそそ、そうだねセイ君///杏ちゃん。いいい、いったいどうしちゃったんだろうね///」


「…おい奏。どうしたんだよさっきから…まさか熱でもあるのか?だったら酷くならないうちに保健室にいけよ?」


「ふぇ…ふぇ…べべべ、別に熱なんてないもん…熱なんて…絶対ないもん!!」


「聖。とりあえずあなたに言っておきたいことがあります。リア充爆発しろ♪」


「なんぞおぉおおおお!?」




教室の中。響き渡る聖の絶叫に奏と凉が笑みを浮かべる。だが、このとき彼らは気付いていなかった。これが3人で交わした最後の笑みだということに――




――ガラガラッ…!!




「というテロップつけてみたんだけど、どう??格好良くない!!」


「………杏。お前、最初から教室の外で盗み聞きしてやがっただろ?」


「………しかもサラッと僕達の輪から外れて自分だけ死亡フラグ回避しましたね」


「…………………てへ☆」


「あぁああああああんんんんんんんんんん!!!!」


「きゃあぁあああ♪」




というわけで♪実はあたしsideだった???side終了♪みんな!!また次回もよろしくね〜♪




           `

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