匣の中にあるもの
「あの匣の中には、何が入っているんですかね?」
部下の疑問に、騎士団長はめんどくさそうに答える。
「何も入ってないか、どうしようもないガラクタが入っているかの、どちらかだろう」
「いえ、私もそう思っていたんですけどね。インチキ宗教が、意味ありげに掲げるハコの中なんて、くだらないものしか入ってないと思っていたんですよ。でも、それだったら、王国がここまで大掛かりな対応しますか。せいぜいベテラン騎士が五人程度派遣される案件でしょう。それが、王女様みずからの指示で、騎士団長が指揮をして主要七部隊を引き連れて、おまけにエリート魔法使い部隊を連れていく。戦争でもするみたいじゃないですか」
「俺もちょっと戸惑っているが、世間に騎士団もちゃんと仕事していますよってアピールするつもりじゃないのか」
この王国は女神教を信仰しており他の宗教の布教活動を禁止してるが、その取り締まりはわりかし緩く、破壊行為や暴力など他の重罪犯罪が絡まなければ注意程度にとどめられている。
女神教の教えを否定する広報活動をおおっぴらにしていたために取り締まり自体はしなくてはいけなかったが、騎士団長は半分休暇気分だった。
最近忙しかったから楽をできる仕事を割り振ってくれたんだなと、騎士団長は心の中で王女に感謝する。
匣の教団。
その名を名乗るその集団は三十人程で、代表者の教祖は若い女で、常に匣をかかえていた。
この匣の中には、見てはいけないものが入っています。
そこそこ美しい見た目の教祖が、見慣れぬ教祖服を着こみ、謎めいた言動で、けして見せぬ匣の中を想像させる。
大衆の興味を持たせるには十分だった。
あの匣の中には何が入っているのだろう?
いろいろな憶測がされる。
見たら発狂してしまう呪いのアイテムが入っている。
喋る生首が入っている。
とかとか。
「くだらん」
と、その噂話を切り捨てる騎士団長。
「中身を見せないことで底知れない不気味さを演出しているつもりだろうが、それなら匣の中身を取りあげて晒してしまえばいい。くだらない正体がわかれば、世間も信者も興味をなくすだろう」
教団の制圧は三十分もかからなかった。信者達全員を拘束し、教祖の女から匣を取り上げる。
「処罰は罰金程度で済むだろう。だが、この匣の中身を暴いて、神秘性とやらを無くさせてもらうぞ」
騎士団長は蓋を開ける前に、匣を振る。
中で物が動く感覚がある。
「おっ、一応、中は入っているのか」
「その匣の中を見たら、あなたは正気ではいられないでしょう」
「やめろやめろ。もったいぶった言いまわしでけむに巻こうとするのは。何の意味のない物が入っているだけなのはわかってるんだよ」
「その匣の中には、この世界の真実が入っています。それが偽物でないことは、あなた方が証明しています。王国の騎士団長のあなたが、これだけ大掛かりな武力で隠蔽を図りにきたのです。王国が真実を隠蔽するつもりですね」
「真面目に働けよ」
あきれ顔で、騎士団長は匣の蓋に手をかける。
「その中身を見た大主教がどうなったか知ってますか。あの普段すました顔でこの世界が女神が創ったと言っていた大主教が、その匣の中の真実の書をみてどうなったのか」
騎士団長の顔色が変わる。
「真実の書?」
「ああっ。あなたも、知っていたのね。そうか、そうよね。あなたは女王の側近中の側近。知っていて当然」
騎士団長が震える手で匣の蓋を少しだけ開ける。
そこには一冊の本があった。
叩きつけ蓋を閉める騎士団長。
「封印だ!封印しろ!」
絶叫する騎士団長。
騎士団長の命令に従い、王国の魔法使いが何重にも魔法で匣を封印していく。
「やはり、やはり、その真実の書は本物だったのね。騎士団長さえも大主教と同じ取り乱しかたをしているわ」
「そいつの口をいますぐふさげ!それ以上、喋らせるな!ここは完全封鎖だ!」
口枷で口をふさがれるまで、高笑いをする女教祖。
「きぁははははは。その本に書かれてあることは真実だったのね。この世界を作ったのは本当は女神なんかじゃないんだ。この世界を作っ」
「女王様。匣を回収しました」
「ご苦労です。騎士団長」
立場を守った堅苦しい報告を終えて、学生時代の呼び名に戻す二人。
「りっちゃんさ、匣の中にあれが入っていたならちゃんと言ってよ」
「ごめんごめん。大主教のあっちゃんが取り乱しちゃって、こっちもちゃんと把握できなくて下手なこと言えなかったのよ」
「でも、なんであの女教祖がこれを持っていたの?」
「私達の後輩だったそうよ」
「ああ、そうか、確かこれ、魔法学校の図書室の本棚に隠してたわね。誰も使っていない図書室の本の中に紛れさせて隠す。それが、かっこいいって思っちゃったのよね」
「そうよね、かっこいいって思っちゃったよね。調子にのって、その本まで作っちゃったからね。将来、騎士団長を継ぐことになるせっちゃんのために考えた最強黒魔術集。その百七十二番黒魔術、自分の寿命と引き換えに悪魔ドラゴンを召喚する、私達が考えた最強攻撃黒魔術」
「やめてよ。いまの部下達に知られているたら、もう偉そうに命令できないじゃない」
「悪魔ドラゴンは召喚者の命を狙っていて、リスクが高い黒魔術なのだ」
「やめてやめて。なら、将来、王女になるりっちゃんのために考えた最強ドレスってもあったよね」
「うわぁ。思い出させないでよ」
「王女のドレスの中には、暗殺者に対応するための武器がいろいろ隠されているのだ」
「恥ずかしい。めっちゃ、恥ずかしい」
「でもまあ、そこらへんは私達の黒歴史ですむけど、さすがにこの世界を作ったのが女神様じゃないてっのはまずかったわね」
「あれ書いたあっちゃんが大主教を継いだから、まずいどころじゃないわよ」
「この真実の書を読んでいる君に真実を記そう。この世界は女神が作ったのではないのだ。この世界を本当に作ったのは・・・」
「やめて、思い出させないで、恥ずかしいから」
おわり




