表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/52

最弱の一撃

疾風会――弱者狩りを娯楽とする小派閥。

虫ケラどもの群れが何を吠えようが、本来ならば王の視界に映る価値もない。

だが、彼らは我が隣に座った愚か者へ牙を剥いた。

その時点で、処罰は確定していた。




「おい、ゼロ判定!」

「Eランクがイキってんじゃねえぞ!」


怒号と共に、五人の上級生が一斉に襲いかかる。

風の衝撃波が土を削り、火花が弧を描き、強化された拳が空気を裂く。

凡百の異能を寄せ集めた雑兵の群れ――数だけは多い。


だが、それだけだ。


我は一歩、前に出る。


衝撃波を肩を傾けてすり抜ける。

過ぎ去った腕を掴み、軽く捻ると、骨の軋む音と悲鳴が同時に弾けた。


「ぎゃあっ!?」


火花が飛ぶ。

指先でわずかに触れると、軌道は逸れ、仲間の背を焼いた。


「ぐあっ!」


拳が迫る。

逆に踏み込み、拳の持ち主の体勢を崩し、地面へ叩き伏せる。


「な、何だこいつ……!」

「速すぎる!」


彼らの叫びを背に、我は淡々と歩き続ける。

それは追い払うための動きではない。

ただ“王の歩み”を続けるだけで、敵が勝手に倒れていく。




「ふざけるなああッ!」


最後の一人が全身を硬化させ、巨岩のような拳を振り下ろす。

地面が抉れ、砂煙が舞い上がる。


しかし――我の影すら掠めはしなかった。


「見世物にもならぬ」


囁き、掌をわずかに押し出す。

硬化した肉体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。

硬さも重さも意味をなさぬ。

結局は、王の前でひれ伏すしかないのだ。


「が、は……っ」


呻きが裏庭に響く。

残る者たちの目には、もはや戦意ではなく恐怖しかなかった。




(……さて)


彼らは立ち上がろうとしながら、足を震わせていた。

己の群れを頼みに、嘲笑を武器にしていた者たちが、今は小鹿のように怯えている。


この程度の虫どもに、我が真の力を振るう価値はない。

ならば――


我は指先をわずかに掲げた。


光が集まる。

小さな、小さな球。

子供の遊び道具にすら見える、頼りない灯火。


「なんだ……ただの光か?」

「はっ、脅かしやがって!」


疾風会の連中は笑った。

その嘲りは、一瞬の後に絶叫へ変わる。




《零撃》


名を告げると同時に、光は弾けた。


轟音。

大地が鳴り、空気が裂け、周囲に衝撃が奔る。

最小の出力――それでも結果は残酷だった。


疾風会の連中は、まるで糸の切れた人形のように吹き飛び、地に叩き伏せられた。

悲鳴すら追いつかず、意識が途切れる。


数秒後、土煙が晴れた時、彼らは一様に地面に沈んでいた。




静寂。

風の音だけが裏庭を吹き抜ける。


悠真は呆然と立ち尽くしていた。

血と土に汚れた顔で、ただこちらを見ている。

その目には、恐怖と……僅かな安堵が入り混じっていた。


(……最弱の一撃で、これだ)


我は光の余韻を振り払い、ゆっくりと掌を下ろす。


「――虫ケラども」


冷ややかな声が、沈んだ彼らに降り注ぐ。


「これが我を愚弄した報いだ」


誰一人、反論する声はなかった。

立ち上がれる者すらいなかった。




夕陽が沈み、裏庭は闇に包まれ始める。

我は踵を返し、呆然とする悠真の前を通り過ぎる。


彼に言葉はかけない。

庇うつもりはない。

ただ――“王の気まぐれ”として、虫の隣に立つことを許しただけ。


その背に、微かな声が届いた。


「……やっぱ、すげぇよ」


振り返ることはしない。

だがその声は、確かに我の耳に残った。


(……愚か者め。だが――嫌いではない)


そう心中で呟き、我は静かに歩み去った。




◆キャラクター紹介(第9話)


【主人公(転生魔王)】

ランク:E(測定不能)

異能:千の術式を操る。

今回の行動:疾風会の5人を圧倒。

最後は「千の中で最弱の技・零撃」を出力最小で放ち、全員を一撃で沈める。


【派閥《疾風会》】

弱者狩りを常とする小派閥。

悠真を標的にし続けたが、主人公の最弱技で完膚なきまでに沈められる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ