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水音の余韻、力の象徴、そして次なる舞台へ

「勝者、高槻颯太!」


審判の声が響いた瞬間、講堂全体が大きな歓声に包まれた。


「やっぱり颯太だ!」

「一撃の重さが違う!」

「あれがCクラスの力押しか……!」


熱狂は颯太に向けられた。

だが同時に、舞台に倒れ込む小柄な少女へも視線が集まっていた。


「三輪七海……すげぇよ……」

「最後まで諦めなかったな」

「負けたけど、あんな戦い見せられたら、もう弱者なんて呼べないだろ」


拍手が二つに割れた。

強者の勝利を讃える拍手と、敗者の健闘を称える拍手。

その両方が混じり合い、舞台は不思議な熱に包まれていた。


七海は肩で息をしながらも、静かに起き上がろうとした。

立ち上がる力は残っていなかったが、それでも背筋を伸ばし、客席に一礼する。


「……ありがとうございました」


掠れた声に、観客が大きく拍手で応えた。


(……すげぇ。最後まで負けてなかったんだ)

俺は胸の奥が熱くなるのを感じていた。




(俺だったら……あんなふうに抗えただろうか?)


自問が胸を突く。

自分の弱さを何度も思い知らされてきた。

だが、七海は小柄な体で颯太に挑み、最後まで立ち続けた。


(……そうだ。弱者だからこそできる戦いがある。

七海が証明したんだ)


俺は強く拳を握りしめた。




「……見事よの」


隣で真凰が口元に笑みを浮かべる。


「小波は砕かれた。だが、その水音は群衆の胸を震わせた。

敗者であれど、舞台を彩る役者には変わりない」


「……あんたは、本当にそういう言い回ししかしないな」

俺は苦笑しながらも、内心は納得していた。




生徒会室では、冷静な議論が続いていた。


黒瀬征士は即座に吐き捨てる。

「結局は力。やはり弱者は弱者だ」


だが桐生澪奈はメモを取りながら反論する。

「いえ、三輪七海の戦術は評価に値します。

舞台全体を利用する発想は稀有。もしあれがさらに磨かれれば……」


緋彩は淡々とした声で言葉を足す。

「封じの技は希少。使い道はいくらでもある。

……だが、決定力不足は否めない」


蓮司は椅子に座り直し、静かに口を開いた。

「強者が勝ち、弱者が観客を沸かせる。

それが舞台の本質だ。高槻は力の象徴として価値がある。

……そして三輪七海もまた、学園を賑わせる一つの駒となった」


その言葉に、生徒会の空気が締まった。




観客席の端。

氷室拓真は腕を組み、試合を最後まで見届けていた。


「……あれだけ抗っても結局は押し切られる。

やはり舞台を制するのは力か」


だが、その瞳に小さな光が宿る。


「だが、小波は確かに岩を揺らした。

心を揺らす存在……それもまた、学園を動かす力になり得る」


彼の視線は真凰へと流れる。

「だが……最後に舞台を奪うのは、やはりあの男だろうな」


静かな呟きが雑踏に消えた。




舞台中央。

颯太は汗を流しながらも、堂々と立ち続けていた。


「……俺は負けねぇ。力で、全部押し通す」


その声は重く響き、観客から再び大きな歓声を浴びる。


だが、颯太自身の表情に笑みはなかった。

ほんの一瞬、七海の姿を見つめ、無言で視線を逸らす。


(……颯太も、わかってるんだな。

七海の戦いが、ただの敗北じゃないって)




歓声が収まりきらぬまま、アナウンスが再び講堂を震わせた。


「次の試合を発表します――」


観客が一斉に静まり返る。


「Bクラス一年、《橘 陽翔》!

対するは、Cクラス一年、《工藤 沙羅》!」


観客席が一気にざわついた。


「橘だってよ! あの冷静沈着なBクラス剣士!」

「工藤も中堅実力者だ、実力拮抗か?」

「次も面白くなりそうだ!」


俺は息を呑み、舞台を見下ろした。


真凰は不敵に笑みを浮かべる。

「……さて、次の舞はどのように彩られるか」


観客の熱はまだ冷めることなく、次なる戦いを待ち望んでいた。




◆キャラクター紹介(第44話)


【高槻颯太】

Cクラス一年。勝者として力の象徴となったが、七海の抗いを心に刻む。


【三輪七海】

Dクラス一年。敗北したが、観客の心を大きく揺らし、舞台を彩った存在。


【日向悠真】

七海の姿に「弱者の戦い方」の価値を強く感じ取る。


【主人公(真凰)】

観客と舞台を見下ろし、敗者も舞台を彩る役者と評する。


【生徒会】

颯太を戦力として評価、七海の戦術眼も冷静に議論。


【氷室拓真】

七海を「心を動かす存在」として評価しつつ、最終的に真凰を注視。


【橘陽翔/工藤沙羅】

次の試合の発表で舞台に呼ばれ、観客の期待を集める。

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