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巨岩と小波、終焉の咆哮

「……《水縛陣》!」


七海の声と共に、水が颯太の脚を絡め取る。

観客が総立ちになり、熱狂の渦が広がった。


「やったぞ!」

「力押しを止めた!」

「DクラスがCを倒すかもしれねぇ!」


七海は息を荒げながら叫んだ。

「これで……終わりにする!」


その瞳は揺るがぬ意思を宿し、両手をさらに強く振るう。

水が螺旋を描き、颯太の全身を締め上げた。


だが――


「……なめんなよ」


低く響く声に、空気が震えた。

颯太の筋肉が異様なまでに膨張し、全身から赤黒い気配が立ち上る。


「うおおおおおおッ!!」


轟音。

水縛が一瞬で膨れ上がり、次の瞬間、爆発するように砕け散った。


「……っ!」

七海が衝撃で吹き飛ばされる。


観客席から悲鳴が上がった。


「なに今の……!」

「水縛が……破られた!?」




颯太は荒い息を吐きながら、拳を鳴らす。

「力を縛れるなんて思うな……俺の力は、誰にも止められねぇ!」


巨体が一歩、また一歩と前に進む。

舞台が軋み、振動が観客席まで届いた。


「七海……!」

俺は思わず立ち上がりかけた。


七海は膝をつきながらも立ち上がる。

体は震え、呼吸も乱れていた。

だが瞳だけは決して折れていなかった。


「……まだ……私は……負けない!」


声は掠れていたが、会場中に響いた。


「すげぇ……まだ立つのか」

「小柄な身体で、よくここまで……!」

「頑張れ、七海!」


観客の声援が波のように広がる。




颯太が拳を構え、叫んだ。

「潰す!」


七海は残る力を振り絞り、水を刃へと変えた。

「来なよ……! 私は……沈まない!」


拳と水刃がぶつかり合う。

轟音が舞台全体を揺らし、光と水しぶきが乱舞した。


「うおおおおおッ!」

颯太の雄叫びが響き渡る。


「くっ……!」

七海は全力で押し返すが、力の奔流が徐々に彼女を飲み込んでいく。


水刃が軋み、砕け、最後には粉々に散った。


「……ああっ!」


七海の身体が宙を舞い、舞台の端に叩きつけられる。


審判が手を挙げた。

「――そこまで! 勝者、高槻颯太!」




観客席は一瞬、静寂に包まれた。

次の瞬間、大きな歓声が響いた。


「うおおおお! やっぱり颯太だ!」

「力の象徴だな!」


だが同時に――


「七海……すげぇよ!」

「負けたけど、あんな戦い見たことない!」

「よくやった! 本当に!」


敗者への声援が、会場のあちこちから湧き上がった。


舞台に横たわる七海は、苦しげに目を閉じながらも微笑んでいた。

「……届かなかった。でも……私の波は、残せたかな……」




俺は胸がいっぱいで、ただ呟いた。

「七海……強かったよ」


真凰は静かに笑みを浮かべる。

「小波は砕かれた。だが、その水音は群衆の心に響いた。

それで十分よ」


「……お前、ほんとそういう言い方……」

俺は苦笑したが、否定できなかった。




生徒会室。

黒瀬征士が鼻を鳴らす。

「結局、弱者は弱者だ。あの程度の抗いに意味はない」


桐生澪奈は冷静に記録をつけながら答える。

「いえ、彼女の戦術は評価すべきです。

力押しに対抗できる稀有な例でした」


緋彩は感情を見せず言葉を落とす。

「力を封じられる者は貴重。……ただ、決定打は欠いた」


蓮司は微笑を深める。

「群衆を沸かせた。

敗者でありながら、観客の記憶に残る……そういう存在は、学園の舞台に必要だ」


一方で氷室拓真は舞台を見下ろし、独りごちた。

「……悪くねぇ。あの小波は、確かに巨岩を揺らした。

だが……結局、最後に立っていたのは力の象徴。

――本当に崩せるのは、あいつだけか」


彼の視線は、悠然と笑む真凰へと向かっていた。




歓声がまだ鳴り響く中、次のアナウンスが会場を震わせる。


「次の試合を発表します――」


観客の視線が舞台に集まり、緊張が再び高まった。


俺は深呼吸をし、拳を握る。

(次は……どんな戦いが待ってるんだ?)


真凰の横顔は、相変わらず愉快そうな笑みを浮かべていた。




◆キャラクター紹介(第43話)


【高槻颯太】

Cクラス一年。最後に肉体強化を爆発させ、水縛を破り勝利。力の象徴として会場を圧倒した。


【三輪七海】

Dクラス一年。敗北したが、戦術で颯太を追い詰め、観客の心に深い爪痕を残した。


【日向悠真】

七海の抗いに強く胸を打たれ、「弱者でも戦える」ことを再認識する。


【主人公(真凰)】

戦いを「小波と巨岩の舞」と評し、愉快に見守る。


【生徒会】

七海の戦術を評価しつつも「決定打不足」と分析。敗北を冷静に受け止める。


【氷室拓真】

七海を評価しつつも「最後に崩せるのは真凰」と見抜き、注視を強める。

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