剣士の勝利と群衆の声
「勝者、白石恭平!」
審判の声が響いた瞬間、講堂に割れんばかりの拍手が広がった。
「やっぱり強ぇ……!」
「二刀の剣術、完璧だったな」
「これがBクラスか……!」
白石は刀を収め、深く一礼した。
その姿は派手さはなくとも、実直で力強い。
観客席からは自然と拍手が湧き上がり、尊敬を集めていた。
だが、同時に葵の名を叫ぶ声もあった。
「葵! 最後まで速かったぞ!」
「負けたけど凄かった! 本当に!」
舞台に膝をつき、肩で息をする葵。
悔しげに唇を噛んでいたが、声援を受けてわずかに顔を上げた。
「……俺の速さが……届かなかった。でも……」
その呟きに、俺は胸を打たれた。
(葵……悔しいよな。でも、ちゃんとみんなに届いてる。
挑むこと自体が……意味になるんだ)
「……やっぱり、Bクラスの壁は厚いな」
俺は隣で小さく息をついた。
真凰は相変わらず悠然とし、笑みを浮かべている。
「弱者の疾風、強者の双牙に砕かれる……美しきかな。
だが、葵の抗いは無駄ではなかった。群衆の心を揺らした」
「……お前は、ほんとそういう言い方するよな」
俺は苦笑しつつも、同意を否定できなかった。
観客の声援は確かに葵へも向けられている。
敗者であっても、心を動かすものがある――それを真凰は愉快だと笑っているのだ。
その頃、生徒会室。
「白石恭平……やはり使える駒だな」
黒瀬征士が腕を組み、低く言い放つ。
「速さを誇る葵を圧倒した。あれなら秩序の維持に十分使える」
桐生澪奈は冷静にノートに記録を取りながら答える。
「白石は実直で、戦術も堅実。生徒会に直接逆らう可能性も低いでしょう。
管理するには適した人材です」
天城緋彩は感情のない瞳で舞台を映す。
「秩序に従う剣士か……秩序を保つには必要な駒」
征士はさらに付け加える。
「やはり弱者の勝利など一時の幻想だ。透も葵も結局は砕け散った。
それを証明したのが白石だ」
その言葉に、蓮司は椅子に深く座り直し、静かに笑んだ。
「……だが、群衆は幻想を好む。
弱者が抗う姿に湧き立ち、強者の勝利で安心する。
それが舞台の本質だ。白石は強者の象徴として相応しい」
会長の声に、生徒会の空気が収束した。
彼らは常に、この学園を“舞台”として捉えていた。
観客席の隅。
氷室拓真は静かに腕を組み、試合を見届けていた。
「……白石。確かに強い。だが、型通りの強さだ」
その口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「群衆は剣士に喝采を送る。だが、心に残るのは葵の抗いだ。
……弱者の刃なき疾風。それを見せた意味は小さくない」
彼は視線を横に流す。
そこには悠然と佇む真凰の姿があった。
「だが……結局すべてを攫うのは、あの男だろうな。
疾風も剣士も、最後は奴の舞台を彩る駒にすぎん」
氷室の瞳は冷徹に輝き、次なる策を練り始めていた。
歓声がまだ響く講堂に、再びアナウンスが流れる。
「次の試合を発表します――」
観客席が一斉に静まり返った。
「Cクラス一年、《高槻 颯太》!
対するは、Dクラス一年、《三輪 七海》!」
観客がざわめき出す。
「お、次はCとDの戦いか」
「高槻は力型だろ? 一撃が重いって聞く」
「三輪七海……女の子だよな? どう戦うんだ?」
次なるカードは、また違った緊張を観客に与えた。
俺は息を吸い、舞台を見下ろす。
(次はどんな戦いになるんだ……?)
真凰は口元を吊り上げ、冷ややかに笑った。
「強と弱。男女の戦いか……また一興よの」
◆キャラクター紹介(第40話)
【白石恭平】
Bクラス一年。実直な剣士として勝利を収め、観客と生徒会からも評価を得る。
【佐倉葵】
Cクラス一年。敗北したが、速さと挑戦心で観客の心を動かした。
【日向悠真】
観戦から「挑む意味」を再認識。敗者にも価値があると感じる。
【主人公(真凰)】
群衆の心理を「愉快」と評しつつ、全てを見下ろす王者のような態度。
【生徒会】
白石を「秩序を保つ駒」と評価。弱者の勝利を幻想と断じる。
【氷室拓真】
白石の強さを認めつつも「型通り」と見なし、真凰こそ本命と注視。
【高槻颯太/三輪七海】
次戦の対戦者。まだ実力は不明だが、観客の注目を集めている。