最弱と最弱
入学式が終わったあとも、講堂のざわめきはなかなか収まらなかった。
俺はその片隅で、ずっと冷や汗を流していた。
「……やっべえ、やっぱ俺、場違いなんじゃねえのか」
俺のランクはD。
一応“合格ライン”には乗っている。
だがDなんて、上位のCやBからすればただの的だ。
俺はどちらかといえば、身体も小柄で線が細い。
力自慢の連中や、いかにも異能が派手そうな奴らに囲まれていると、
どうにも自分が“最弱”なんじゃないかと思えて仕方がなかった。
(きっと最初の序列戦で俺は叩き潰される。
周りはそう思ってんだろうな……)
その時だった。
「Eランクだってよ!」
「ゼロ判定、判定不能!」
「最初に消えるのはアイツだな!」
俺は反射的に視線を向けた。
舞台に立っていたのは、漆黒の瞳で嘲笑を浮かべる少年――
“測定不能のEランク”と記録された転入生だった。
その余裕めいた態度に、会場はざわめき、罵声すら浴びせていた。
(……あれが……俺より下?)
思わず息を呑んだ。
胸の奥で、安堵と卑怯な安心感が混じった。
(よかった……俺だけじゃなかったんだ。
俺よりも下がいる……!)
式が終わり、講堂を出るとき、
俺は無意識のうちにその少年を探していた。
黒髪に、整った顔立ち。
けれど周囲から距離を取られ、嘲笑と好奇の視線を浴びてもなお、
堂々と歩く姿があった。
(……すげえな。俺なら絶対俯いて歩くのに)
勇気を振り絞り、声をかけた。
「な、なあ。君、さっきのEランクの……」
少年が振り向いた。
その双眸は冷たく、どこか人間離れした威圧を放っていた。
思わず足が竦む。
「我に何用だ、人の子よ」
「ひっ……!?」
思わず後ずさった。
でも、ここで引いたら一生後悔する気がして、
俺は震える声を押し殺しながら続けた。
「お、俺もDランクなんだ。
だから、なんつーか……ほら、似た者同士っていうか……」
しばしの沈黙。
その少年――いや、“転生魔王”は俺を値踏みするように見下ろし、
ふっと鼻で笑った。
「ふむ……我を同列に並べるとは、不遜な奴よ。
だが――嫌いではない」
「え?」
「よかろう。せいぜい我を退屈させぬ程度に、隣を歩くがいい」
「……っ!」
胸が高鳴った。
さっきまで最弱だと縮こまっていた俺にとって、
これは救いにも似た言葉だった。
(もしかして……俺、仲間を得られたのか?)
その後、教室に案内されると、担任の若い教員が自己紹介を始めた。
「俺は篠崎 岳人。第四クラスの担任を務める」
彼の視線は鋭く、俺たちを甘やかす気など微塵もなさそうだった。
「勘違いするな。
俺はお前たちを庇うつもりは一切ない。
生き残りたければ、自分で這い上がれ。
そういう場所だ――凰嶺学園はな」
その冷酷な言葉に、教室が静まり返る。
俺は唾を飲み込み、隣に座る“Eランク”をちらりと見た。
彼は涼しい顔で、あくまで魔王然と椅子に座っていた。
(やっぱ……俺には到底真似できねえ。
でも、俺はこの人に食らいついていこう)
そう心に決めた。
この時の出会いが、俺の運命を変えるとは知る由もなく。
◆キャラクター紹介(第4話)
【日向 悠真】
ランク:D
異能:振動感知
性格/立ち位置:臆病で自分を最弱だと思い込んでいた新入生。
だがEランクの主人公を見て「自分より下がいる」と安堵し、声をかけたことで相棒ポジションに。
お人好しで、物語の潤滑油的存在。
【篠崎 岳人】
ランク:教員(若手)
異能:強化系の基礎異能(詳細不明)
性格/立ち位置:第四クラス担任。
冷酷に「庇わない」と告げる現実主義者だが、生徒を鍛える姿勢は真剣。