刃と疾風の幕開け
透の勝利の熱狂がまだ消えぬ講堂に、新たなアナウンスが響いた。
「Bクラス一年、《白石恭平》!
対するは、Cクラス一年、《佐倉葵》!」
観客席の空気が一変する。
「おお……白石か!」
「やっと来たな。あいつ、剣の腕前は本物だぞ」
「佐倉も見逃せない。あの速さ……掴める奴はいないって噂だ」
歓声とざわめきが渦巻く中、俺は舞台を見下ろした。
(……透が勝ったことで、次のカードも注目されてる。
BとC……一体どんな戦いになるんだ?)
隣で真凰は小さく笑った。
「刃と風か。互いに速と剛、異なる矛を掲げて舞台に立つ……。
愉快よの」
舞台の片側から歩み出たのは白石恭平。
短髪に鋭い目、長身で無駄のない体躯。腰には二本の刀を佩き、背筋を伸ばして堂々と進む。
「……俺は白石恭平。武器術こそ、俺の道だ」
低く、重みのある声。その一言で、観客席が引き締まった。
「カッコいいな……やっぱ剣士は映える」
「Bクラスってやっぱレベル高ぇ……」
一方、反対側からは佐倉葵が軽快に現れた。
青みがかった黒髪をポニーテールに結び、しなやかな脚を弾ませる。
歩みは軽やかで、まるで舞台を駆け回る準備をすでに終えているかのよう。
「Cクラス代表、佐倉葵! スピード勝負なら誰にも負けないからな!」
高らかな声に、観客席が盛り上がった。
「いいぞ葵! あの身軽さはヤバいぞ!」
「白石とどう戦うか楽しみだな」
「刃と風の勝負……」
「正反対のスタイル同士……燃える!」
周囲の声に押され、俺の胸も高鳴る。
(剣士とスピード型……力と技術の対決になるのか、それとも……)
真凰は余裕の笑みを浮かべている。
「いかに俊足を誇ろうと、刃の間合いから逃れられるか……見ものだ」
舞台中央で二人が向かい合った。
白石が二本の刀を抜き、ゆっくりと構える。
無駄な動きのない、研ぎ澄まされた姿勢。
「……俺の剣は止まらない。逃げ道は、ないぞ」
その低声に、観客が息を呑む。
対する葵は腰を落とし、両手を広げて軽やかにステップを踏んだ。
「逃げるんじゃないさ。捕まらなければいい――それが速さの強さだ」
二人の視線がぶつかり合い、舞台の空気が張り詰めた。
「――始め!」
審判の声と同時に、葵が風のように舞台を駆け抜けた。
「速ぇ!」
「目で追えない!」
観客席がどよめく。
葵の姿は残像を残し、舞台を縦横無尽に駆ける。
「はっ!」
背後から飛び出した葵の蹴りが白石を襲う。
だが――
「遅い」
白石は振り向きもせず、刀で蹴りを受け流した。
金属音が響き、火花が散る。
「なっ……!」
葵が目を見開く。
白石は淡々と告げた。
「速さだけでは、刃の間合いは破れん」
再び刀を構え、葵を正面から睨む。
「チッ……!」
葵は舌打ちし、さらに速度を上げる。
残像が増え、観客席から歓声が飛ぶ。
「見えねぇ! 葵が何人もいる!」
「でも白石は冷静だ……剣で全部受け流してる!」
実際、白石の刀は残像を的確に切り裂いていた。
風を読むように、次の位置を予測しているのだ。
「……これがBクラスの底力か」
俺は息を呑んだ。
真凰は笑みを崩さない。
「速さは見事。だが、王者の間合いを突破せねば意味はない」
葵は舞台を駆けながら、必死に隙を探していた。
(……全部読まれてる……! だったら――)
跳躍。
頭上からの急襲。
「ふっ!」
白石は即座に上段に刀を構え、火花を散らす。
「甘い」
葵は空中で体をひねり、逆に背後へ回り込む。
その脚が白石の背を狙った。
「くっ……!」
白石が咄嗟に体を翻し、刀で受け止める。
観客席が沸き上がる。
「すげぇ! あの二人……もう人間じゃねぇ動きだ!」
「速さと剣術のぶつかり合い……どっちが勝つんだ!?」
戦いはまだ始まったばかり。
刃と風、剛と疾の激突は、これからさらに激しさを増していく――。
◆キャラクター紹介(第38話)
【白石恭平】
Bクラス一年。二刀流の剣士。冷静沈着で、残像すら見切る眼力を持つ。
【佐倉葵】
Cクラス一年。スピード型。舞台を縦横無尽に駆け、トリッキーな動きで翻弄する。
【日向悠真】
観戦から「速さと剣術の拮抗」を直に見て震える。
【主人公(真凰)】
冷徹に観戦し「速さと間合いのせめぎ合い」を愉しむ。