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揺らぐ空気、裏の視線

「佐伯……すごかったな」

「負けたけど、あいつの影……まだ頭に残ってる」

「俺たちDクラスでも、やれるんじゃないか……?」


講堂を出る生徒たちの声は、敗者を笑うものではなかった。

むしろ佐伯の奮闘に心を揺さぶられた生徒が多く、空気は不思議な高揚感に包まれていた。


俺――日向悠真は、その声を聞きながら胸を熱くしていた。


(あいつ……確かに負けた。けど、確かに「戦った」んだ。

居場所を求めるその姿は、俺と同じだった……)


拳を握りしめ、呼吸を整える。


隣に立つ真凰は、相変わらず涼しい顔で口角を吊り上げていた。


「愚かなる弱者の抗い……愉快よの」


その声音にぞくりとする。

俺には震えが残っていたが、彼はただ楽しんでいる。

まるで王が退屈しのぎに臣下の舞を眺めるかのように。




その頃、生徒会室。


黒瀬征士が机を叩きつけるように声を上げた。


「くだらん! あの佐伯とかいうDクラスの雑魚が、中途半端に爪痕を残しやがったせいで、

余計な幻想を抱く者が出てきている。

弱者に希望を与えるなど――秩序を乱すだけだ!」


冷徹な視線が集まる中、桐生澪奈は静かに言葉を差し挟む。


「……ですが、士気は学園の動力でもあります。

結果的に凛が勝った以上、生徒会の威信が損なわれたわけではありません」


「甘いことを言うな!」

征士は苛立ちを隠さず声を荒らげた。


天城緋彩は表情を動かさず、短く告げる。

「弱者は弱者。秩序の外にあるものは排除すべきです」


その冷たい言葉に、さらに空気が張り詰める。


だが、神威蓮司は一人だけ微笑を浮かべていた。


「……よいではないか。弱者が抗い、観客が湧く。

それもまた、この舞台の醍醐味よ。

どうせ最後には……駒は駒に過ぎぬ」


「会長……」


その冷笑と共に、場の空気は収束した。

生徒会は冷徹に、しかし確実に次の一手を考えていた。




観客席の隅。

氷室拓真は腕を組み、佐伯の戦いを最後まで見届けていた。


「……負けても、名は残るか。

弱者の奮闘に、群衆は心を揺らす……。なるほどな」


薄く笑い、彼は席を立った。

疾風会の旗が再び翻る日は遠くない――そう予感させる背中だった。




「次戦――」


講堂に再びアナウンスが響き、観客のざわめきが戻ってくる。


「Aクラス一年、《神楽崎 翔》!

対するは、Cクラス一年、《羽柴 透》!」


場内が一気に盛り上がった。


「おおっ、神楽崎だ! 剣じゃなく異能一本で勝負する奴だろ!」

「羽柴も地味に実力あるぞ。これは荒れる!」


熱気が戻りつつある舞台を見渡しながら、俺は静かに息を吸った。


(次はどんな戦いになる……?

そして、俺は――俺たちは、どう戦う?)


真凰は悠然と佇み、ただ笑みを浮かべていた。


「よい……舞台はますます賑わう。

王の覇道を飾るには、退屈せぬ方が良いからな」


その横顔に、背筋が震える。


こうして、次なる戦いが幕を開けようとしていた。




◆キャラクター紹介(第33話)


【日向悠真】

佐伯の奮闘に共感し、決意を新たにする。


【主人公(真凰)】

弱者の抗いを「愉快」と評し、冷徹に楽しむ。


【黒瀬征士】

生徒会会計。弱者に希望を与える存在を排除すべきと主張。


【桐生澪奈】

書記。冷静に「士気も必要」と発言。


【天城緋彩】

副会長。徹底した秩序至上主義を見せる。


【神威蓮司】

会長。全てを「駒」と見なし、余裕の笑みを浮かべる。


【氷室拓真】

疾風会のまとめ役。佐伯の戦いを観察し、何かを企む。


【神楽崎 翔・羽柴 透】

次戦の対戦者。新たなカードで観客の期待を集める。

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