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剣と影の開幕

「続いての試合――Aクラス一年、《早乙女 凛》。

対するは、Dクラス一年、《佐伯 蓮》。舞台へ!」


審判の宣言と共に、二人が舞台へ姿を現した。


観客席が一斉にざわつく。


「おお……あれが早乙女家の跡取りか」

「剣術の名門だぞ、知らないのか?」

「相手は……佐伯? 誰だ? 聞いたこともねえ」


名門と無名。

試合前から、勝敗の天秤は大きく傾いていた。


早乙女凛は背筋を伸ばし、静かな足取りで舞台中央へ進む。

腰に下げた木刀の鞘が、軽く打ち合う音を響かせるたび、観客の緊張が増していった。


対する佐伯蓮は、地味な容姿の少年。

髪は整えられておらず、制服の袖も少し擦れている。

観客からの嘲笑に一瞬肩をすくめたが、その瞳だけは強く結ばれていた。


「……やるしかない」

小さく呟いた声は、誰にも届かなかった。




審判が中央に立ち、二人を向き合わせる。


「互いに一言、宣言を」


凛は木刀を軽く振り、刃先を正面に向けた。


「早乙女凛。

剣を執る者に敗北の二文字は不要――勝つ」


短く、鋭く、言葉すら斬撃のようだった。


続いて佐伯。

胸に手を当て、震えを抑えながらも口を開いた。


「……佐伯蓮。

Dクラスだからって、諦める気はない。

俺は――俺の居場所を作るために戦う!」


その言葉に観客がざわつく。


「居場所……?」

「なんか日向に似てないか?」


聞き慣れた言葉に、俺は胸がざわついた。


(……そうだ。俺も、居場所を求めてここに立ってるんだ)




「始め!」


審判の手が下りると同時に、凛の姿が掻き消えた。


(――速いッ!)


気づけば、凛は佐伯の眼前に立ち、木刀を横薙ぎに振り抜いていた。

観客席が一斉に息を呑む。


「っ……!」


佐伯は後ろへ飛び退き、肩口を掠められる。

制服が裂け、血が滲んだ。


「いきなり当てたぞ!」

「やっぱり早乙女は別格だ!」


歓声と喝采。

だが佐伯の目はまだ死んでいなかった。


「まだ……これからだ!」


彼の足元に影が揺らめき、黒い靄が舞台に広がった。




「影か……」


凛の瞳が細められる。

その足元を黒い蔦のような影が絡みつき、拘束しようと迫った。


「影縛り――!」


観客がざわつく中、佐伯は両手を前に突き出す。


「俺だって……簡単には負けない!」


舞台上に広がる黒影が凛の脚を捕らえ、一瞬動きを止めた。


「おお!」

「佐伯が止めた!」


観客がざわめく。


しかし凛は低く笑った。


「悪くない。だが――甘い」


木刀を振り抜くと、影は裂けるように弾け飛んだ。




「……愉快よの」


隣で真凰が笑った。

その声音は王が臣下の奮闘を見下ろすかのようで、背筋が震える。


「真凰……」


俺は拳を握りしめた。

佐伯の姿は、過去の自分と重なって見えた。


(震えながらも、それでも立っている。

俺もああやって……逃げないで戦わなきゃいけないんだ)




舞台上、凛が木刀を構え直す。


「いい。少しは遊べそうだ」


「遊びじゃない! 俺は本気だ!」


佐伯の影が再び舞台に広がり、凛の動きを封じようと迫る。

凛は影を断ち切りながら、鋭い突きを繰り出した。


刹那、影が形を変え、凛の背後から蔦のように襲い掛かる。


「おお……!」

「佐伯、攻めた!」


観客が息を呑む。


凛は振り返りざまに木刀を振り抜き、影を斬り払った。

黒煙が散り、空気が震える。


「まだ立つか……面白い」


凛の口元が僅かに吊り上がった。

佐伯の眼にも、恐怖を上回る光が宿っていた。




影と剣が交差し、舞台の中心で火花を散らす。

観客は立ち上がり、息を詰めて見守っていた。


俺は拳を握りながら、心の中で叫んでいた。


(佐伯……証明してくれ! 弱者にだって戦う意味があるって!)


次の一撃が放たれようとする瞬間――

講堂全体が、異様な緊張で張り詰めた。




◆キャラクター紹介(第31話・リライト版)


【早乙女 凛】

Aクラス一年。剣術の名門・早乙女家の出身。

木刀を用い、速度と正確さで相手を圧倒。

自信と誇りを抱き、戦いを「遊戯」とも思う余裕を持つ。


【佐伯 蓮】

Dクラス一年。地味な無名生徒。

異能〈影縛り〉で相手の動きを拘束する。

「居場所を作る」という理由を胸に、恐怖を超えて舞台に立つ。


【日向 悠真】

観戦しながら佐伯に自分を重ね、「弱者の戦い」に共感。

戦う理由を改めて思い返す。


【主人公(真凰)】

悠然と観戦し、「……愉快よの」と評す。

佐伯の奮闘を臣下を眺める王のように楽しんでいる。

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