余韻と導線
天城緋彩が舞台を去った後も、講堂の空気は凍りついたままだった。
誰もが歓声をあげることを忘れ、ただ圧倒的な「支配」の光景を思い返していた。
「……異能を消した」
「副会長って、あそこまでやれるのかよ……」
「やっぱり生徒会は格が違う」
観客の言葉は畏怖に満ちていた。
先ほどまで「村瀬ならあるいは」と期待していた声は、跡形もなく消え失せている。
緋彩の存在は、それほどまでに重く冷たいものだった。
翌日。
凰嶺学園の校舎内は、昨日の戦いの噂で持ちきりだった。
「緋彩副会長の律制……あれ、どうなってるんだ?」
「攻撃も防御も通じないとか、反則だろ」
「Eランクの真凰が勝てるわけないだろ……」
すれ違うたびに、その言葉が耳に飛び込む。
俺は気づかぬふりをして廊下を歩いた。
(……やっぱりそう思うよな。俺だってそう思う。
でも……それでも、俺は――)
胸の奥に昨日の佳奈美との会話が蘇る。
「居場所を作るために戦う」――その言葉。
(……俺は、真凰の隣に立つ。絶対に)
隣を歩く真凰は、周囲の視線など全く気にしていない。
悠然と背筋を伸ばし、まるで学園全体を見下ろす王のようだった。
「……副会長の力、どう思った?」
俺は思わず口にした。
「無機質な秩序。
敵にすれば厄介極まりないが――」
真凰はかすかに笑みを浮かべた。
「王に挑む牙としては、悪くない」
「……お前って本当に、怖いのか余裕なのか、わかんねぇよ」
「どちらでもよい。
退屈が和らぐなら、それで充分だ」
その声音に、背筋がぞわりと震えた。
一方、生徒会室。
黒瀬征士は腕を組み、不快げに吐き捨てた。
「……副会長の勝利で場は引き締まったな」
桐生澪奈が冷静に頷く。
「生徒会の権威を示すには十分すぎました」
神威蓮司は薄い笑みを浮かべる。
「真凰も緋彩も、舞台を揺らす駒に過ぎん。
問題は――どちらが最後まで立っているか、だ」
その視線の奥には、冷酷な興味だけが宿っていた。
昼休み、再び講堂に集合する新入生たち。
審判が舞台に立ち、次戦のカードを告げる。
「次戦――Aクラス一年、《早乙女 凛》!
対するは、Dクラス一年、《佐伯 蓮》!」
歓声が上がる。
「おお、早乙女か! 剣術の名門だろ!」
「佐伯は知らないな……初めて見る名前だ」
俺は舞台に立つ二人を見つめながら、拳を握りしめた。
緋彩の冷徹な支配を見せつけられた後でも、舞台は続いていく。
俺たちも、必ず立つ時が来る。
(その時、俺は逃げない。
ここで――俺の戦う理由を証明するんだ)
◆キャラクター紹介(第30話)
【天城緋彩】
生徒会副会長。律制の異能で圧倒的な支配を見せ、観客に恐怖を植え付けた。
【日向悠真】
学園に広がる「生徒会の強さ」の空気を肌で感じつつも、「相棒の隣に立つ覚悟」を固め直す。
【主人公(真凰)】
悠然と観戦し、緋彩を「王に挑む牙」と評す。むしろ愉快そうに受け止める。
【神威蓮司・生徒会】
生徒会の権威を再確認しつつ、真凰を「舞台を揺らす駒」として観察。
【早乙女凛】
Aクラス一年。剣術の名門出身。次戦の挑戦者として登場。
【佐伯蓮】
Dクラス一年。地味な存在だが、ここで初めて舞台に立つ。