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冷徹なる支配の終幕

「まだ……終わっちゃいねぇッ!」


村瀬剛の咆哮が舞台に響く。

全身が鈍色に輝き、異能〈鋼皮〉が限界まで発動する。

筋肉が膨れ上がり、血管が裂けそうに浮き上がった。


「副会長を……倒せば……! 俺は上に行けるんだ!」


その叫びに観客席が沸いた。


「すげぇ……まだ立ち上がるのか!」

「村瀬、いけえええ!」

「副会長に一矢報いろ!」


場内の熱気が最高潮に達する。

観客は誰もが一瞬、「もしかしたら」という希望を抱いた。


だが――天城緋彩の瞳は、最初から揺れていなかった。




「秩序は既に決まっている」


冷徹な声と共に、緋彩は指を軽く鳴らした。


「――《律制・重圧》」


空気が震え、村瀬の足元に亀裂が走る。

見えない重力の檻が降り注ぎ、村瀬の身体を押し潰した。


「ぐっ……あああッ!」


鋼皮で強化された脚が震え、膝が床を割った。

村瀬は歯を食いしばり、必死に耐える。


「まだ……折れねぇ……!」


その声に観客はさらに熱狂する。

だが同時に、空気にひび割れたような違和感を感じ取っていた。


(……もう決まってる)

俺は唇を噛みしめた。

緋彩の力は、ただの攻撃や防御じゃない。

相手の存在そのものを「縛る」……逃げ場なんて、最初からなかったんだ。




村瀬は全身の力を振り絞り、叫んだ。


「喰らええええッ!」


鋼鉄の拳が、絶望的な重圧を押し退け、緋彩へと突き進む。

観客が総立ちになった。


「届くか!?」

「副会長に拳が――!」


だが、緋彩は微動だにしなかった。

その瞳はただ冷徹に、目前の拳を見つめる。


「――《律制・消去》」


低く呟かれた瞬間、拳が空中で弾けるように霧散した。

硬化していた鋼皮そのものが、存在を否定されるように解除されていく。


「……っ!?」


村瀬の身体から鈍色が消え、ただの肉体へと戻る。

そのまま、彼は力尽きるように崩れ落ちた。


ドサリ、と重い音が舞台に響いた。




審判の声が響き渡る。


「勝者――天城緋彩!」


歓声は……上がらなかった。

観客はただ沈黙し、その支配の光景に息を呑んでいた。


「……異能を、消した……?」

「副会長の力……あれが本物の支配……」


誰もが理解した。

村瀬が弱かったのではない。

緋彩が絶対的に強すぎたのだと。


舞台中央に立つ緋彩は、勝利の余韻すら示さなかった。

表情は変わらず、ただ「当然の秩序」を確立しただけのように。




(……これが、副会長)


俺は全身が震えていた。

あんなの、どうすれば勝てるんだ。

存在そのものを縛られて、抗う力さえ奪われて。


「……怖いか」


隣で真凰が低く問いかけた。

その声に、俺はハッとした。


「……怖いさ。だけど……」


拳を握る。

心臓は早鐘を打っている。

それでも、俺は言葉を絞り出した。


「それでも、戦う理由はある。

俺の居場所を作るために……!

そして、相棒の隣に立つために!」


真凰は一瞬だけ口角を吊り上げた。


「……ならば見届けよ。王の前に立つ資格を持つかどうかを」




同じ頃、生徒会室。

黒瀬征士は腕を組み、冷徹に舞台を見下ろしていた。


「……やはり副会長は揺るがないな」


神威蓮司は薄く笑みを浮かべる。

「秩序を担う者。……あれこそ、我らが生徒会の矜持だ」


緋彩は無表情のまま、舞台を後にする。

勝利の余韻すら纏わず、ただ冷徹に次の戦いへ向かう姿。


その背中は、観客の心に「絶対」という二文字を刻み込んでいた。




俺は椅子に沈み込み、深く息を吐いた。

目の前で繰り広げられたのは、圧倒的な「支配」の戦い。


(……副会長……)


怖い。

でも、それ以上に――挑まなきゃいけない壁だと理解した。


真凰は悠然と立ち上がり、冷ややかに言い放った。


「面白い。王の覇道にふさわしい舞台が整いつつある」


その横顔を見て、俺は改めて決意を固めた。


(俺も、負けない。

どんなに怖くても、逃げない。

ここで――俺の戦う理由を証明するんだ)


◆キャラクター紹介(第29話)


【天城 緋彩】

生徒会副会長。異能〈律制〉で対象の行動や状態を支配・固定・消去する。

村瀬剛の鋼皮を無効化し、冷徹に勝利。


【村瀬 剛】

Bクラス二年。異能〈鋼皮〉。最後まで抗うも、緋彩の絶対的な支配力に敗北。


【日向 悠真】

支配の恐怖を目撃しながらも、「戦う理由」を胸に刻む。

真凰の隣に立つ覚悟を再確認する。


【主人公(真凰)】

悠然と観戦し、「王に挑む資格を持つ」と緋彩を評価。

舞台が整いつつあることを楽しむ。


【生徒会】

黒瀬征士は冷徹に、神威蓮司は愉悦を込めて観戦。

緋彩は生徒会の矜持を示した。

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