王と相棒
「勝者――真凰!」
審判の声が響いた瞬間、講堂は爆発した。
歓声と怒号が渦を巻き、俺は思わず耳を塞ぎたくなるほどだった。
「ありえねぇ!」
「黒瀬迅が……負けただと……?」
「EランクがCランクを圧倒したぞ!」
その場にいた全員が混乱していた。
「ゼロ判定」「最弱」「取るに足らない」
――そう嘲笑していた新入生が、黒瀬家の実力者を打ち倒したのだから。
だが、舞台中央の男は騒ぎなど眼中にないかのように、悠然と立っていた。
王――真凰。
(……やっぱり、“あいつ”は人間じゃない……)
俺はその背中を見つめ、心の中でそう呟いた。
試合後、新入生用の控室。
騒がしい観客席から逃げるように俺は真凰と二人でそこへ入った。
誰もいない小さな空間に、重い沈黙が流れる。
「……すげぇな」
思わず漏れた言葉は、それだけだった。
本当はもっと言いたいことがある。
どうしてそんな強さを持っているのか。
何者なのか。
でも口を開けば、全部砕け散ってしまいそうで。
真凰は椅子に腰掛け、目を閉じたまま低く答えた。
「当然だ。王が凡俗に劣る道理はない」
「……はは、だよな」
俺は力なく笑った。
「なあ」
気づけば、俺は口を開いていた。
「お前……いや、真凰。
お前にとって、俺って何なんだ?」
自分でも唐突だと思った。
けれど、聞かずにはいられなかった。
あまりにも遠い。
あまりにも強大すぎる。
あの舞台で圧倒的勝利を収めた男に比べて、俺は何だ?
「ただの足手まといか?」
声が震えた。
本当は聞きたくなかった答え。
真凰の瞼がゆっくりと開き、冷ややかな光を宿した瞳が俺を射抜いた。
「足手まとい、か……」
短く呟き、口角をわずかに吊り上げる。
「否。虫けらは虫けらなりに、王の行く道を賑わせる」
「……賑わせる?」
「退屈な舞台に彩りを添える存在だ。
だが――」
そこで一拍置き、彼は言葉を重ねた。
「王に隣り立つ覚悟があるのなら、相棒と呼ぶに足るだろう」
俺の胸に雷が落ちたような衝撃が走る。
「相棒……」
足手まといじゃない。
まだ追いついてはいない。
けれど「相棒」と呼ぶ可能性を認めてくれた。
その一言だけで、涙が出そうになった。
「……だったら、俺は隣に立つ。
いつか絶対、お前と同じ景色を見る」
真凰は何も言わなかった。
ただ目を細め、どこか遠い未来を見据えるように視線を上げていた。
控室の外では、まだ観客の騒ぎが続いている。
「真凰……あいつ、何者だ?」
「黒瀬征士は黙ってないぞ……」
生徒会の影が動き出そうとしていた。
だがそのざわめきは、俺と彼の間には届かない。
今、この空間にあるのは――
王と相棒。
その関係が、確かに芽吹いた瞬間だった。
◆キャラクター紹介(第23話)
【主人公(真凰)】
王の風格を崩さず、悠真を「相棒と呼ぶ可能性がある」と認める。
悠真を完全に見下ろしてはいないことを示す。
【日向 悠真】
バトルを目の当たりにし、圧倒的な差を痛感。
だが「隣に立ちたい」と決意し、相棒としての自覚を芽生えさせる。
【黒瀬 征士】(遠景)
弟の敗北を無言で見下ろし、主人公への敵意を深めている。