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黒瀬家の影

「――第四戦、Eランク新入生、“真凰”。

対戦相手は……二年、Cランク・黒瀬 くろせ・じん


副会長・天城緋彩の無機質な声が響いた瞬間、講堂の空気が大きく波打った。


「黒瀬……!?」

「まさか征士の弟か?」

「生徒会会計の身内じゃねえか!」


会場中にざわめきが広がる。

黒瀬という名字だけで、誰もが緊張を覚えるのは当然だった。

学園において黒瀬家は、力と伝統の象徴であり、生徒会の一角を担う名門の血筋だからだ。


俺――日向悠真はごくりと唾を飲んだ。


(黒瀬……征士の弟……!)


頭に浮かんだのは、生徒会会計の黒瀬征士の姿。

鋭い眼差し、強硬な姿勢。

あの男の弟が今、相棒の初戦相手として立ちはだかろうとしている。


兄がどれほど苛烈な性格かは、俺自身は知らない。

けれど――「生徒会の黒瀬」というだけで十分すぎるほどの重圧だった。





ざわめきを押し分け、舞台に現れたのは鋭い目つきの少年だった。

短く刈った黒髪、荒々しい歩き方。

兄・征士とは違い、どこか不良じみた攻撃的な雰囲気を漂わせている。


「……真凰、だと?」


迅は鼻で笑い、観客にわざと聞かせるように声を張った。


「ゼロ判定の新入生が名乗りだけは立派なもんだな。

だが、この舞台に立つ資格はねえ。

兄貴――黒瀬征士の名に誓って、俺が叩き潰す」


観客が一斉に沸き立つ。


「さすが黒瀬の弟!」

「影走が出れば新入生なんて一瞬で終わりだ!」


その熱気は、「勝負は見えた」という確信で満ちていた。





だが、舞台中央に立つ“王”は動じなかった。

悠然と、迅を見下ろすように視線を向ける。


「黒瀬迅。

王の前に立った時点で、お前の役目は決まっている」


その言葉は澱みなく低く、絶対的な威圧を孕んでいた。

会場は一瞬静まり返り――次の瞬間、爆笑に包まれる。


「何言ってんだこいつ!」

「ゼロ判定が王気取りかよ!」

「マジでイカれてる!」


だが俺は気づいた。

黒瀬迅の口元が、わずかに歪んだのを。


(苛立ってる……!)


表向きは余裕を装っていても、“王”の言葉は確実に彼の心を揺さぶっていた。





壇上の生徒会席。

黒瀬征士は腕を組み、冷徹に弟の戦いを見下ろしていた。

その眼差しは観客にも悠真にも意味は分からない。

だが読者だけは知っている――彼が“真凰”を最初から排除すべきだと主張した強硬派であることを。


無言の圧力が、弟の背に重くのしかかる。





「……王だと?」


迅の声は低く、怒気を含む。


「勘違いも大概にしろよ、新入生。

俺は黒瀬家の血を引く者――

影の一撃で、お前を一瞬で沈めてやる」


その瞬間、観客席はさらに熱狂を増した。


「きた、影走だ!」

「兄貴の征士と同じで、弟もやべえ!」


空気が完全に「黒瀬迅有利」に傾いていく。





俺は膝の上で震える拳を握りしめた。


(黒瀬迅……相当な実力者だ。

兄の征士が生徒会にいるんだ。弟だって噛ませなわけがない……!)


でも同時に、胸の奥で別の直感が囁く。


(……もしかして、ほんとの噛ませにされるのは、黒瀬迅の方なんじゃないか?)





審判が両者を見据える。


「第四戦――開始!」


黒瀬迅の足元から、影が奔った。

漆黒の軌跡が舞台全体に広がり、観客が一斉に歓声を上げる。


「出た! 〈影走〉だ!」


その様子を、“王”は微動だにせず見下ろしていた。


「……戯れは終わりだ」


低く放たれた一言が、空気を震わせる。

次の瞬間、影と王が交錯した――。




◆キャラクター紹介(第21話)


【黒瀬 くろせ・じん

二年生・Cランク。黒瀬征士(会計)の実弟。

異能〈影走〉:影を移動経路に変え、瞬時に間合いを詰める。

血気盛んで挑発的。兄の威光を背負い、主人公を潰そうとする。


【黒瀬 征士くろせ・せいじ

生徒会会計。肉体強化系の異能を持つ強硬派。

今回:弟の戦いを冷徹に見下ろす。


【主人公(真凰)】

名を得たばかりの新入生。

悠然と「王」として立ち、観客の嘲笑をものともせず圧を放つ。

その異様な態度が迅を苛立たせ、「かませ」に見せてしまう。


【日向 悠真】

観戦者。黒瀬家の威光に圧倒されつつも、「本当に噛ませになるのは迅かもしれない」と直感する。


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