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名を持たぬ者

講堂にざわめきが戻ってきた。

三戦目――俺と生徒会書記・桐生澪奈の戦いは終わった。

敗北はしたが、最後まで抗ったことで観客の印象は大きく変わったらしい。

拍手と野次が入り混じる中で、俺は息を整え、隣の“王”の横顔を盗み見た。


「……よくやったな、悠真」


その一言だけで、胸の奥が熱くなった。


だが余韻に浸る暇もなく、副会長・天城緋彩が次の抽選を回す。

金属球がからんと音を立て、落ちる。


「第四戦……Eランク、新入生――」


空気がぴたりと止まった。

全員の視線が、一人に集中する。


「……該当者、名簿に記載なし。呼称未登録」


緋彩の言葉に会場がざわついた。


「未登録? どういうことだ」

「名もない新入生なんて聞いたことねえぞ」


俺は冷や汗をかいた。


(……やっぱり!)


隣に座る彼――ゼロ判定の“王”は、堂々と立ち上がった。




「呼称未登録か。ならば――」


彼は胸を張り、低い声で響かせた。


「我が名は――魔王」


「…………」


会場が、一瞬にして凍りついた。

次いで、爆発的な笑いとざわめき。


「マジかよ、魔王だってよ!」

「頭おかしいんじゃねえの?」

「厨二病か? ゼロ判定の癖に!」


俺は慌てて顔を青くする。


(やばいやばいやばい! 本気で言った!

このままじゃ“危ない奴”認定される……!)


壇上の緋彩が僅かに眉をひそめ、生徒会長・神威蓮司の瞳が鋭く光る。


(……だめだ、このままじゃ余計に目をつけられる!)





「ま、魔王じゃなくて――!」


気づけば俺は叫んでいた。

会場中の視線が一斉に俺へ向く。

心臓が跳ねたが、もう引き返せない。


「“真凰”だっ! 真実の“真”に、鳳凰の“凰”!

読みは……マオウ!」


一瞬、静寂。


次いで、ざわざわとした反応が広がる。


「……真凰? 変な名前だが、魔王よりはマシか」

「字面だけ見れば強そうじゃん」

「なるほど、マオウって読むのか」


俺は必死に笑顔を作った。


「ほらっ! いいだろ、マオウって!

魔王じゃなくて真凰! うん、かっこいい!」





当の本人は、腕を組んで俺を見下ろしていた。


「……真凰、だと?」


「そ、そう! 真実の凰!

堂々としてて……かっこいい名前だと思う!」


沈黙が落ちた。

彼の瞳が冷ややかに光り、俺は喉を鳴らした。


(やばい……気に入らなかったら殺される……!)


だが次の瞬間――彼は小さく鼻を鳴らした。


「ふん……虫けらにしては悪くない。

我が名として認めてやろう」


「……っ、よ、よかったぁぁ……!」


思わずへたり込みそうになる。





会場の空気も少し落ち着いた。


「真凰か……妙に字面が立派だな」

「ゼロ判定にしちゃ粋がってる」

「いや、でもセンスは悪くないかも……?」


野次は残るが、“魔王”と名乗った時の爆笑よりは遥かにマシだった。


壇上の緋彩も小さく頷き、名簿に文字を記す。


「――第四戦、Eランク・新入生、呼称“真凰”」


公式に登録され、会場にその名が響いた。





舞台に上がる前、俺は彼の隣に並んで歩いた。


「なあ……助かったろ?

魔王のままだったらヤバかったって!」


「ふん。虫けらの癖に、王の名を捻じ曲げおって」


「ご、ごめん……!」


「だが――」


彼はちらりと俺を見て、口角をわずかに上げた。


「まあよい。我が名が再び世界に轟くその時までの仮初め……許してやる」


「……っ!」


胸が熱くなった。

認めてもらえた。ほんの少しだけど。


(よし……俺も、隣に立ち続けるんだ)


心にそう刻み込み、俺は深く息を吸った。




◆キャラクター紹介(第20話)


【主人公(真凰/しんおう/マオウ)】

本来は“魔王”と名乗ろうとするが、悠真の機転で“真凰”として登録される。

内心は不満だが、しぶしぶ了承する。


【日向 悠真】

Dランク。主人公の暴走を必死でフォロー。

「魔王」を「真凰」ともじる機転を利かせ、窮地を救う。


【神威 蓮司】

生徒会長。主人公の「魔王発言」を鋭く観察。

「ただの狂人か、真に危険な存在か」を見極め始める。


【天城 緋彩】

副会長。無表情で“真凰”を登録。

主人公の動向をデータとして逐一記録。


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