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初戦、幕が上がる

講堂の熱気は冷めることを知らなかった。

序列戦の開幕を告げる生徒会長・神威蓮司の声がまだ耳に残る中、

壇上では副会長・天城緋彩が抽選機を操作していた。


金属球が回転し、からんと音を立てて一つ落ちる。

その球に刻まれた番号が、初戦の対戦者を告げる。


「――初戦、Cランク・久遠 玲司くおん・れいじ

対するはDランク・小野寺 舞花おのでら・まいか


会場がざわめいた。




「……いきなりCランクとDランクか」


悠真はごくりと唾を飲み込む。

初戦から格上対決。新入生にとっては試練そのものだ。


隣の“王”は微動だにせず、冷ややかに呟いた。


「虫けら同士の戯れ……退屈だ」


「いやいや! 俺らにとってはめちゃくちゃ大事なんだから!」


思わず声を荒げるが、彼は意に介さない。

悠真は内心で(頼むから観戦中は黙ってくれ……)と祈った。




審判が合図を送る。


「第一戦――始め!」


空気が張り詰めた瞬間、舞花が先に動いた。

風を纏い、床を蹴る。


「っはあっ!」


まるで矢のように疾駆し、一気に間合いを詰める。

観客席から歓声が上がる。


「速い……!」

「やっぱり新入生でも舞花は別格か!」


だが次の瞬間、玲司の指先が閃いた。


「無駄だ」


床から伸びた銀の糸が光を反射し、舞花の進路を塞いだ。

幾重にも張り巡らされた鋼糸の檻――。


「くっ……!」


舞花は咄嗟に跳躍し、辛うじてかわす。

だが風を纏う脚に、鋼糸がかすり、鮮血が散った。





「やっぱり久遠は強いな……」

「鋼糸は目に見えづらいから厄介だ」


悠真は拳を握りしめていた。


(やっぱり……Cランクって格が違う)


自分と同じ新入生の舞花が必死に戦う姿に、胸がざわめく。


一方で、隣の“王”は冷ややかに見つめていた。


「……糸に怯え、風を鈍らせるか。

その時点で敗北は決まっている」


「お、お前さ……!」


悠真は返す言葉を失った。

確かに玲司の鋼糸は絶望的に厄介。

だが諦めず立ち向かう舞花を、彼は容赦なく切り捨てる。





「まだよっ!」


舞花が叫び、風をさらに纏う。

痛みを無視し、床を蹴るたびに疾風が巻き起こる。


「っ……! あれは……」


観客席から驚嘆の声。

彼女の身体の周囲に風の輪が生まれ、鋼糸を押し返していた。


「見えた……!」


風を刃のように圧縮し、玲司の前へ突き出す。


「風環――裂空!」


一条の風刃が走り、玲司の張った鋼糸を切り裂いた。

わずかな隙間が生まれる。





だが玲司は表情を崩さず、冷たく呟いた。


「悪くない。だが遅い」


瞬間、四方八方から鋼糸が収束する。

舞花の足に絡みつき、腕を縛り、動きを封じた。


「ぐっ……!」


鋼糸が食い込み、風の刃が霧散する。

玲司は静かに手を振り下ろした。


「勝負あり」


審判の声が響いた。





勝者、Cランク・久遠玲司。

敗者、小野寺舞花。


会場からは拍手とため息が入り混じる。

新入生の希望は打ち砕かれ、しかしその勇敢な姿は強く印象を残した。


悠真は拳を握りしめ、隣を見た。


「……なあ、あいつ頑張ったよな」


「無駄な足掻きに価値などない」


「……っ!」


怒りが込み上げるが、同時に気づく。

彼はただ、別の基準で物事を見ているだけだ。


(……それでも、俺はああやって戦える人間でいたい)


心の奥に、静かな決意が芽生えた。




◆キャラクター紹介(第17話)


【久遠 玲司くおん・れいじ

二年生・Cランク。

異能:〈鋼糸〉。鋼の糸を操り、捕縛や斬撃を行う。

性格:冷徹で合理主義。勝つことに迷いがない。

今回:舞花を圧倒し、初戦の勝者となる。


【小野寺 舞花おのでら・まいか

一年生・Dランク。

異能:〈風環〉。風を纏い、加速・回避・攻撃を行う。

性格:明るく負けず嫌い。

今回:勇敢に挑むが、Cランクの壁に敗れる。


【主人公】

観戦者。舞花の奮闘を「無駄」と断じる。

その冷笑が、悠真の心に影を落とす。


【日向 悠真】

舞花を必死に応援し、敗北に胸を痛める。

「弱くても戦える姿勢」を尊いと感じ、自分に重ねる。


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