表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/52

序列戦、開幕

その日、凰嶺学園の全生徒が大講堂に集められていた。

天井まで届く荘厳なステンドグラス、金色の装飾が施された壇上。

まるで国の議場のような重厚さが漂い、息を呑むざわめきが広がっていた。


ざっと数百人はいるだろう。

Aランクの輝かしい上級生から、最底辺のEランク新入生まで、全員が一堂に会している。

学園にとって特別な日――序列戦の開幕を告げる式典だ。


「……すげえな」


俺――日向悠真は、思わず隣の“王”に囁いた。

だが彼は腕を組み、目を閉じたまま動かない。


「虫けらどもが群れる様など、見ていて退屈なだけだ」


(……堂々としてるよな、ほんと)


俺はため息をつきつつも、どこか安心していた。

こんな圧倒的な空気の中でも、彼は全く動じていない。




壇上に立ったのは、生徒会長――神威 蓮司。

その姿が見えた瞬間、会場のざわめきが一気に収まる。


黒の学ランに金の刺繍。

整った顔立ちに冷徹な瞳。

その存在感だけで、全員を支配していた。


「――静粛に」


蓮司の声が響いた。

拡声器も使っていないのに、講堂の隅々まで届く。

その低く通る声音に、生徒たちは一斉に息を呑んだ。





「これより、凰嶺学園・定例の序列戦を開始する」


蓮司の宣言に、会場が震えた。


「序列戦は、この学園における力の序列を定めるものだ。

成績や人脈ではない――純粋な“異能”による戦いで決まる。

勝者は昇格し、敗者は降格する。

これこそが凰嶺の秩序であり、我々が存在する理由だ」


その言葉に、多くの生徒が誇らしげに頷く。

序列戦は単なるイベントではない。

学園における地位、生活、ひいては卒業後の進路にまで影響を及ぼす。


国家にとっても、凰嶺は兵力養成機関。

序列上位の者は軍や政府に直結する道が約束される。

その重みを理解していない者は、一人もいなかった。





蓮司が手を掲げると、副会長・天城 緋彩が前に出た。

冷静な瞳を光らせ、資料を読み上げる。


「序列戦の基本ルールを改めて告げる。


一、対戦は一対一の形式を原則とする。

一、対戦相手は学園側が抽選し、拒否はできない。

一、勝敗は戦闘不能、降参、または審判による判定で決する。

一、殺傷は禁止。ただし重傷は自己責任とする。

一、勝者は順位を上げ、敗者は順位を下げる」


淡々とした口調だが、言葉の一つひとつが重かった。


「なお、特例として“連戦”を選択できる。

勝者が望めば、次の挑戦者をその場で受けることが可能だ。

連勝数はそのまま記録され、評価に直結する」


会場にざわめきが広がる。

連戦――すなわち力ある者ほど輝き、無謀な者は奈落に落ちる制度だ。




緋彩の後を引き継ぎ、書記の桐生 澪奈が口を開いた。

透き通る声が講堂に響く。


「また、新入生に関しては初戦の結果に応じて序列が大幅に変動します。

上位に勝てば一気に序列を駆け上がり、逆に負ければその場に留まる。

新入生諸君――ここが君たちの分岐点です」


彼女の言葉に、新入生たちがごくりと唾を飲む。

恐怖、不安、そして興奮。

様々な感情が入り混じり、空気が熱を帯びた。




最後に前へ出たのは会計・黒瀬 征士。

鋭い眼光で新入生たちを睨みつけ、声を張り上げた。


「覚えとけよ! ここは甘っちょろい学校じゃねえ!

序列戦はテストでも模試でもねえ――本物の戦場だ!

ここで勝ち残った奴だけが未来を掴める!

負け犬は踏み潰されて、埃をかぶって終わりだ!」


怒号のような言葉に、新入生たちは一斉に息を呑んだ。

だが一部の強気な者は、口元に笑みを浮かべる。

戦いに飢えた猛者たちだ。






俺――悠真は、そんな光景に圧倒されていた。


(……やっぱり、この学園は普通じゃない)


まるで軍事国家の縮図。

敗者には未来がなく、勝者だけが輝く世界。


隣に立つ彼は、やはり堂々と腕を組み、目を細めていた。


「……笑わせる」


小さく呟いた声に、俺は振り返る。


「なんだよ」


「小さな檻の中で、王を決めるとでも思っているのか。

――滑稽だ」


その言葉に、背筋が震えた。

彼だけは、この学園の枠組みすら超えている。

それが直感で分かった。


(……本当に、何者なんだ)


俺はそう思わずにはいられなかった。






壇上に戻った神威 蓮司が、最後の言葉を放つ。


「――序列戦、開幕」


その瞬間、講堂の空気が爆ぜた。

歓声、悲鳴、怒号。

百を超える思念が渦を巻き、学園全体を揺るがす。


「さあ、見せてもらおう。

誰が頂点に立つのか――そして、王を気取る者がどこまで通用するのか」


冷たい瞳が、群衆の中の一人――主人公を射抜いていた。




◆キャラクター紹介(第16話)


【神威 蓮司】

生徒会長。Aランク。秩序を守る絶対権力者。

序列戦の開始を宣言し、主人公を強く意識。


【天城 緋彩】

副会長。解析系能力者。冷静にルールを説明。

「監視対象」として主人公を追う立場に。


【桐生 澪奈】

書記。結界系能力者。秩序重視の中庸派。

新入生に「分岐点」と語りかけ、不安を煽る。


【黒瀬 征士】

会計。強化系能力者。強硬派で主人公に敵対的。

「序列戦は戦場」と断言し、威圧を放つ。


【主人公】

ゼロ判定、実際は異世界の魔王。

「この檻ごときに王を決める価値はない」と冷笑。

生徒会長に睨まれ、ついに学園の“公式な標的”となる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ