生徒会の眼差し
凰嶺学園に、また新たな噂が駆け巡っていた。
ゼロ判定の新入生が疾風会の五人を一撃で潰した。
氷室拓真に対して正面から渡り合った。
さらには――休養中の上級生、篠宮智真までもがその存在に関心を示した。
単なる憶測の域を超え、もはや確信に近い話題となっていた。
否応なく、学園の均衡にひびが入ろうとしていた。
学園中央棟、最上階。
煌びやかな装飾が施された扉の奥に、生徒会専用の広い部屋がある。
分厚いカーテン越しに沈む夕陽が差し込み、重厚な机の周囲には四人の影が集っていた。
中央に座るのは、会長――神威 蓮司。
冷徹な双眸を光らせ、卓上に並ぶ資料を指先で整える。
その両脇には、生徒会の精鋭たち。
副会長、天城 緋彩。
冷静な知性派で、常に報告書を抱え込む姿が印象的だ。
書記、桐生 澪奈。
整った字で記録を取りながら、柔らかな眼差しで全体を俯瞰する女性。
会計、黒瀬 征士。
筋骨逞しく、強硬な言動が目立つ男。
彼ら三人は蓮司を支える幹部であり、凰嶺学園の秩序を象徴する存在でもあった。
「――ゼロ判定の新入生」
蓮司が静かに切り出す。
その声音には一切の感情がない。
「疾風会の五人を制圧。氷室と対峙。篠宮先輩との接触……これが現状だ」
緋彩がメガネを押し上げ、淡々と報告を補足した。
「目撃証言によれば、“最弱の技を使っただけ”とのことです。
しかし、あの五人がまとめて倒れたのは事実。
測定不能の可能性が高いと見られます」
「……そんな奴を放置していいんですか?」
征士が机に拳を打ちつけた。
重い音が室内に響き、澪奈がわずかに眉を寄せる。
「征士、落ち着いて」
「落ち着いてられるかよ。
新入生がいきなり派閥を潰して回るなんて前代未聞だ。
今すぐ潰さねえと、被害が広がる!」
蓮司の冷たい声が、その言葉を制した。
「焦るな、黒瀬」
「……っ」
「確かに危険因子だ。だが、即座に排除すべきかは議論の余地がある」
澪奈がペンを走らせながら、口を開く。
「私は……監視すべきだと思います。
彼が秩序を乱す危険があるのは確かですが、現時点ではまだ行動が小規模。
決定的な証拠がない段階で排除すれば、かえって生徒会の権威が揺らぎます」
「甘いな、澪奈」
征士が舌打ちする。
「そんな悠長なことしてたら、いずれ生徒会にまで噛みつくぞ」
「根拠のない恐怖で動くのは、秩序の崩壊に直結します」
「チッ……理屈ばっか並べやがって」
緋彩がため息をつき、二人の間に割って入った。
「黒瀬、桐生。意見の違いは分かるが、今は冷静さを欠くべきではない。
――会長、最終判断を」
蓮司はしばし沈黙し、窓の外に目をやった。
赤く燃える夕陽の中で、学園全体が小さく見える。
「……我々の役割は学園の秩序を守ることだ。
そのためには時に力を排除し、時に利用する」
振り返った蓮司の眼差しは、氷のように冷たかった。
「ゼロ判定の新入生――正式に“監視対象第一号”とする」
空気が一瞬にして張り詰めた。
「緋彩、記録班を動かせ。授業態度、人間関係、序列戦での戦い方――すべてを追え」
「承知しました」
「澪奈、公式の記録は中立的に残せ。だが裏では詳細な観察を」
「……分かりました」
「黒瀬」
「……ああ。いつでも叩き潰せるよう準備しとく」
蓮司は小さく頷き、最後に言葉を落とした。
「そして……我々生徒会自ら、近いうちに“試す”。
あの男の正体を――極限に追い込んで」
会議が終わり、幹部たちが散った後。
生徒会室には蓮司だけが残った。
窓辺に立ち、低く呟く。
「……王を気取るか、ゼロ判定」
その声音には、冷たい憎悪ではなく――燃えるような好奇心が混じっていた。
「ならばいずれ、この俺が――叩き折る」
沈みゆく夕陽に照らされた瞳は、静かに燃えていた。
◆キャラクター紹介(第15話)
【神威 蓮司】
ランク:A
立場:生徒会長
性格:冷徹な秩序主義者。合理的かつ非情。
今回の役割:主人公を「監視対象第一号」として正式にマークする。
【天城 緋彩】
役職:副会長
性格:冷静沈着な知性派。データ重視。
異能:解析系。相手の能力の一部パターンを看破できる。
今回の描写:会議の進行を支え、冷静に監視を提案。
【桐生 澪奈】
役職:書記
性格:温厚で秩序重視。
異能:結界系(記録・封印に特化)。
今回の描写:監視を提案。即排除には反対し、中庸の立場を取る。
【黒瀬 征士】
役職:会計
性格:攻撃的で強硬派。
異能:強化系(肉体強化)。
今回の描写:主人公を即排除すべきだと主張し、最も敵対的立場を取る。