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最弱コンビの日常

凰嶺学園での生活は、毎日が緊張の連続だった。

序列戦、派閥、噂、そして氷室や篠宮のような上級生の存在――俺みたいなDランクにとっては、

どれも胃の痛くなる話ばかりだ。


でも、そんな日々の中で、ほんの少しだけ気楽になれる時間がある。

それが「放課後の帰り道」と「食堂でのひととき」だ。




その日も授業が終わり、夕焼けに染まる校舎を出る。

隣には、いつものように堂々と歩くゼロ判定の“王”がいる。


「なあ……今日はどこ寄る?」


恐る恐る尋ねると、彼は面倒そうに視線を逸らした。


「虫けらどもの集う食堂など、退屈極まりない。

だが……腹は減る」


「結局食べるんじゃん……」


思わず笑ってしまう。

彼は王様みたいな言葉を使うのに、腹はしっかり減るし、好物だってある。

そんなところが、なんだか人間らしくて、ちょっと安心する。




食堂は今日も賑わっていた。

各派閥ごとにまとまって席を取り、下級生は怯えながら隅に集まる。

そんな中で、俺と彼は空いている一角に腰を下ろした。


「な、なあ……周り、すげえ見てるぞ」


「好きにさせておけ。

我を直視できるならば、むしろ褒めてやるべきだろう」


「いや、褒めなくていいから!」


俺が慌ててツッコむと、彼はふっと笑った。

その笑みを見て、俺は心臓が跳ねる。


(……やっぱり、怖い人じゃないんだよな)


食堂のメニューを前に、彼は少し考えてから口を開いた。


「ふむ……この“カレー”とやらは悪くないな」


「またそれ? 昨日も食べてただろ」


「我が気に入ったのだ。文句があるか」


「ないです!」


王様のような物言いに、俺はつい笑ってしまった。

でも、そのやりとりが心地よかった。




食事を終えると、校舎の裏庭に出た。

夕暮れの風が心地よく、遠くに鳥の鳴き声が聞こえる。


俺はなんとなく、ぽつりと呟いた。


「……俺さ、ここに来てからずっとビビってばっかなんだ」


「ふん」


「でも、隣にあんたがいたから……なんとか耐えられてる」


自分でも驚くくらい、素直な言葉が出てきた。

主人公は少しだけ目を細め、空を見上げた。


「……虫けらごときが、王に支えなどと笑わせる」


「ひどいな……!」


「だが」


短く言葉を区切り、俺の方へ視線を戻す。


「隣にいることを許したのは事実だ。

我の気まぐれではあるがな」


「……それで十分だよ」


胸の奥が温かくなった。

たとえ気まぐれでも、俺がここにいていい理由ができた気がした。




ふと、遠くで笑い声が聞こえた。

上級生たちが数人、こちらを見てひそひそと話している。


「……見ろよ。あれが“最弱コンビ”だ」

「ゼロ判定とDランク、笑えるよな」

「でも噂じゃ氷室も目をつけてるらしいぜ」


耳に刺さる言葉。

俯きそうになった瞬間――


「顔を上げろ、悠真」


隣の声に、俺ははっとした。

主人公の瞳は、まるで何事もないかのように澄んでいた。


「虫どもの囀りなど、王の歩みを止めはせぬ」


「……そ、そうだな」


小さく笑って頷く。

俺一人なら、絶対に立ち向かえない言葉。

でも彼が隣にいるから、耐えられる。




寮へ戻る道すがら、俺は小さく呟いた。


「……ありがとう」


「何のことだ」


「いや、別に。ただ、隣にいさせてくれて」


彼は答えなかった。

けれど歩みを緩め、俺の歩幅に合わせてくれた。


その沈黙が、不思議と嬉しかった。




俺は弱い。

それは変わらない。

でも――


(それでも、ここにいる。

あの人の隣で、見続けるんだ)


決意を胸に刻みながら、俺は夜の寮へと足を踏み入れた。




◆キャラクター紹介(第14話)


【主人公(転生魔王)】

ランク:E(測定不能)

今回の描写:悠真と共に食堂や裏庭で過ごす。

相変わらず王のような態度だが、悠真を「隣にいることを許す」と認める。


【日向 悠真】

ランク:D

今回の描写:自分の弱さを痛感しながらも、主人公の隣にいることで救われていると自覚。

「最弱コンビ」と呼ばれても逃げないと決意を新たにする。


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