疾風会の粛清
疾風会――その名は凰嶺学園の下層を震わせる。
弱者狩り、集団での恐喝、報復の連鎖。
そう囁かれてきたが――それは真実の半分に過ぎなかった。
翌日。
裏庭で倒れていた五人の上級生は、朝までに教員によって保健棟へ運び込まれていた。
その事実は瞬く間に学園中に広がり、教室の空気を一変させる。
「おい、聞いたか? 疾風会の連中が全滅したらしい」
「ゼロ判定のEランクがやったんだと」
「……マジかよ。やべぇな」
噂は尾ひれをつけて膨れ上がり、あっという間に「Eランクの異常者」が校舎を賑わせた。
だがその陰で、もう一つの動きがあった。
その夜。
人気のない武道場の一角で、五人の男たちが正座させられていた。
彼らの前に立つのは、一人の青年。
鋭い目を持ち、氷のように冷ややかな声を発する男――氷室 拓真。
「……見苦しい」
「ひ、氷室さん、違うんすよ! 俺たちはただ――」
「黙れ」
冷徹な一言で、場の空気が凍り付く。
「貴様らは勝手に疾風会を名乗り、弱者を玩具にした。
そのせいで、疾風会そのものが“いじめ集団”と誤解されている」
五人は青ざめ、必死に言い訳を並べ立てる。
「り、リーダーがいなかったから仕方なく……」
「俺たちは、ただ会を維持しようと……」
氷室の瞳は冷たいままだった。
「言い訳は聞かん。
我らは力を尊ぶが、無意味な暴力を誇る集団ではない。
――お前たちは、疾風会に不要だ」
次の瞬間。
氷室の掌から冷気が溢れ出す。
床一面に霜が走り、五人の身体を瞬く間に拘束した。
「ひっ……!?」
「や、やめ――」
凍り付いた悲鳴が、夜に吸い込まれて消える。
数分後。
武道場には氷室一人が残されていた。
床に残るのは、氷像となった五人の影。
命までは奪っていない。だが、学園に立ち戻る資格も失われていた。
「……リーダー不在の間に、愚か者どもが増えすぎたな」
氷室は小さく吐き捨て、学園の闇に姿を消す。
翌朝。
疾風会の名前は一気に学園内で囁かれた。
だが、その囁きは恐怖だけでなく、不思議な色合いを帯びていた。
「なあ……聞いたか? あの五人、氷室に粛清されたらしい」
「マジ? じゃあ、あいつら勝手に疾風会を名乗ってただけ?」
「本来の疾風会は……違うってことか」
生徒たちの疑念と恐怖は、今度は氷室という人物に向けられていった。
主人公は静かにその噂を聞いていた。
(……氷室 拓真。
愚か者の群れの中にして、なお秩序を求める者か)
ただの暴力集団では終わらぬ存在。
いずれ正面から相まみえることになるだろう。
そして、それは――
転生魔王にとっても、退屈しのぎには悪くない敵の出現を意味していた。
◆キャラクター紹介(第10話)
【氷室 拓真】
ランク:B
異能:氷結系(詳細は不明)
性格/立ち位置:冷徹な頭脳派。疾風会副リーダー。
勝手に“弱者狩り”を行っていた五人を粛清し、派閥の名誉を守る。今後の抗争編で鍵となる存在。
【疾風会】
元々は秩序を重んじる派閥だったが、リーダー不在の間に一部が勝手に暴走。
氷室の粛清により“本来の姿”を取り戻す。
しかし学園内では既に「恐怖の象徴」として噂が広がってしまっている。