ビードロニクス
五話目
メニューを見て食べたいものを入り口で注文して席につく。
席に移動する途中、蓋をされた料理をふわふわと飛びながらもちもちとした猫のような生き物が運んでいた。
「かわいい……!けど、毛が入ったりしないのか?」
「大丈夫だよ、あれは錬成された使い魔だから毛は抜けたりしないんだ」
「なるほど、使い魔か。だから見たことがないデザインなんだな」
「そーそー!うちの学園オリジナル!ちなみに作ったのは創始者らしいよ〜」
この学園の創始者はけっこう面白いものが好きなんだろうか。彼らは人間にぶつからないように高い位置を飛びながら、それぞれの席に注文された料理を上から下降して置く。
忙しなく行き交う姿はなかなか楽しい。ぬいぐるみが働いているみたいでかわいいな、と思っていると注文したメニューが届いた。
出来立ての生姜焼き定食だ。タレが四方から光を受けて輝きを放ち、焼けた香ばしい脂の匂いがよだれを誘う。
口にいれて噛むとタレの濃厚な味わいと噛み進めるごとにどんどん出てくる豚肉の肉汁……。
どこに行っても間違いのない味だ。逆にこれが不味かったら相当なハズレの店だろう。
噛み締めてもぐもぐと咀嚼していると、正面に座った2人から質問を受けた。
「刀真くんは知ってる?この学園の噂のこと」
「?なにかあったのか?」
「この学園って一宮家が運営してるんだけど、噂では一宮家の中でもトップの尊い身分の方が上の学年にいるんだって……」
「へーそうなのか……あれ、でも羽知瑠たちは中等部からいるんだろ?なんで知らないんだ?」
「それがさ〜!もぐもぐ、なんでも、もぐ、高等部からその人も入っきたっぽくて、ごくん!俺たちも直接お目にはかかれてないんだよね〜」
「なおくん、お行儀悪いよ……食べながら話しちゃダメでしよ?」
「すまーそん!許してくれっす!」
もー!と怒りながら笑う羽知瑠たちに笑いながら相槌を打って食べすすめる。
俺の家にはそもそも魔力がある人があまりいなかったので、始まりの五家について詳しくは知らなかった。
俺の知らない世界がたくさんあるものだなーと気楽に考えていると、
「じゃ、けっこう警備とか厳しくなってる系?寄り道できないにゃ〜メソメソ……学生の楽しみが……」
「確かにそうかも……まあ、お菓子は購買にもあるから、ね?」
「いや、羽知瑠。寄り道や買い食いの楽しみはそれじゃ満たされないぞ」
「そーですよ!なー!刀真くん!わかってくれるか……!」
小尾野くん……いや、直樹と固く握手をする。学生の本分は学びだが、それだけでは終われない……!友達とダベリながら歩くのも至高の楽しみの一つだ!と意気投合する。
「まあ、言うて俺たちは関係ないからいいんじゃない?先輩見たって人もあんまりいないから出席率はそうでもないっぽいし」
「確かに見たって人いないよね……きれいな人って噂は回ってるけど」
ほうほう、きれいな先輩……。一目見たいものだ。学園にマドンナがいるのは学生生活にも張りがでるというもの……。
お近づきになれないだろうか?と不遜な考えをしながら食べ終わる。
疲れもあって食欲が満たされると眠気がすぐに襲ってくる。
部屋に戻る途中で直樹と別れて、先ほどきた道を帰る。
「眠そうだね……疲れちゃった?」
「ああ……でも楽しかったよ、初めてのものばかりで夢みたいだ」
「ふふ、これからもっとすごい夢みたいなことを自分でできるようになるよ」
「そうだな……楽しみだ」
部屋に戻って風呂に入って歯を磨くと限界が訪れる。
ベットに倒れこんだ俺に羽知瑠がおやすみなさい、と囁いた。優しい声に誘われて眠りにつく。
いい夢が見られそうだ。