瞬く星を掴み取る
三話目
「今日からこのクラスの担任をする真野緋葉で〜す……」
(なんかあんまりやる気のなさそうな人だな……)
飴を舐めながら登場した担任は、なんともダルそうに挨拶をして黒板に名前を書いた。
「主に防衛魔法を担当教科としてます……アイタタタ……ちょっと待ってね……今飴食べ終わるから」
そう言ってバリバリと飴を噛み砕いて飲み込む。しばらくすると顔色がよくなってハキハキと話し始めた。
「ごめんな!飴食べないと頭痛くてさ〜!ちょっと式がドタバタして食べるタイミング逃した!」
ハッハッハと笑いながらプリントを配っていく担任──真野先生は、驚くほど先ほどとは別人のようだ。
「じゃ!プリントも配り終えたし!始めますか〜!はい!みんな立って!」
え……なに……?と教室はざわつき始める。すると突然、教壇に大きな水晶玉のような物が現れた。
「一番前の列に座ってる人から順番にこの魔宝晶に手を突っ込んでくれるか?で、魔力を流したら手を自分のほうに引っ張って!」
なにが出るかな〜?と真野先生は頬杖をつきながら、楽しそうに生徒たちを眺めている。とりあえずやるしかないみたいだ。この儀式?がなにかはさっぱりわからないが覚悟を決めたらしい先頭の少女が指示された通りに手を入れる。その少女の顔が次第になにかを掴んだような表情へと徐々に変わっていく。そしてそれを引っ張り出すように力を込める。
すると────
「「「………………!」」」
手に握られたのは柄の部分、その先にエメラルドをちりばめたような輝きを放つ大剣があらわれた。
「どうだ?すごいだろ!これがお前たちの魔力で作られた武器、魔導具だ」
クラスの空気が興奮に包まれる。まさか初日からこんなふうに魔法に触れられるとは思っていなかったようだ。みんなが自分の番を今か今かと待ち始めた。
「次!順番に並んでどんどんやっていっていいぞ」
真野先生にそう促されてみんな次々と列を成して魔宝晶に手を伸ばしていく。いろんな魔導具が現れてクラスのみんなが自分の魔導具を眺めている。剣や槍、弓などに本の形をしたもの──それぞれの魔導具が姿を現す。
俺の番が回ってきた。いちど呼吸を整えて魔宝晶に手を伸ばす。始めはなにもなかった手の空間にだんだんとなにかが形を作っていく。そして、手の中のなにかが確かな重みに変わる。
それを引っ張り出すと───
刀が握られていた。角度を変えると赤く見える刀身。鍔は鈍く、黒い光を放っている……。
か、かか
カッコいい〜〜〜…………!!!!!
まるでずっと憧れていた、昔読んだ小説に出てきた刀みたいだ……。
「あ……あの、順番なので代わってくれませんか……?」
感動していると大人しそうな女の子に話しかけられた。まずい!あまりに理想的すぎてぼーっとしてしまった……!
「ご、ごめん。すぐにどくよ!」
焦って自分の席に戻ると、菊水が笑いながら話しかけてくる。
「お前、感動しすぎだぞ!」
「悪かったってば!あまりにも理想のが出てきたからさ」
「まあ、確かにめっちゃ嬉しいよな!しかも初日からこんなん触れるなんてな」
「菊水くんはなんだった?」
「守道でいいよ、俺は薙刀!」
「俺も刀真でいいよ。薙刀か!守道、身体大きいから似合うな〜!」
そんなことを話し合っているといつの間にか全員終わっていたようだ。各々の魔導具を見せあっていると真野先生が、
「じゃあ今度はそれを仕舞う方法を教えるからよく聞いてくれ」
「目を瞑って手に持った魔導具を頭の中でイメージしろ。できたら、それを徐々に小さくしていってくれ……できたか?」
真野先生に言われた通りにやってみる。まず、刀を頭の中にイメージして……それを小さくしていく。
「片手に収まるぐらいにしたら目を開けてくれ」
「よし!みんなできたな。じゃあ俺がそいつに魔法をかけるぞ……〈変成[[rb:変成 > 変われ、成りすませ]]〉ほら、これでピンがついた。これで襟に付けられるから、いつでも使えるぞ」
おお……!と生徒たちから歓声が上がる。小さくなった魔導具に装飾が施されていて、ピンで留めるとちょっとおしゃれなアクセサリーみたいだ。
「これはみんなを識別する意味もあって初日に行われる。この学園の魔宝晶で具現化することで、みんなの魔力が登録されてスムーズに身分なんかを証明できるようになるんだ、便利だよな」
なるほど、このピンが身分証明なのか。
じゃあ、もし忘れたら……
「忘れたら?まあ、校舎には入れないだろうな」
よし、絶対に忘れないでおこう。なんせ、朝日奈先輩からも脅されるほどこの学園は広い。まだ寮がどこにあるかも理解していないのだ。身分証明がなかったらどうなることか……。考えただけで恐ろしい。
そんな決意を固めて初日の挨拶は終わった。