リフレインして、
三十話
「いや!まだ入部するって決めたわけじゃないですって!」
「でも手をとりましたね?じゃあ入部です」
俺は現在、手を全力で両手で引っ張られている――
歌芙先輩に。
思わず差し伸べられた手をとってしまったことで魔法映画部への入部に賛同したと認識されてしまったようだ。
なんて強引なお方でしょうか!
……そろそろ痛いので離してほしい。割と本気で。
「痛い!痛い!離してくださいって!」
「やだ、入部しないと離しません」
「そんなに!?」
「そんなに」
うーん、困った。別に嫌なわけじゃないけど即決するのもなぁ……もう少し迷いたい気もするんだけど。
「(入ってみてはどうか?)」
(え、神様も賛成なの?)
唐突にそれまで大人しく、というかまさか参加してくるとは思わなかった神様が話しかけてきた。
「(ああ、この部活の魔法に興味がある)」
(魔法?あの記憶を継承するとかどうとかってやつ?)
どうやらこの部活自体というよりも使われている魔法に興味があるみたいだ。確かにすごい魔法だよな。
「(興味深いではないか、人の記憶を魔法で継承する……それに)」
(それに?)
「(あの訓練の時、君が見た誰かの記憶。あれは)」
――ああ、そういえば。
戦闘訓練の時、記憶の泡沫ってのがあったっけ。
……そこで見た誰かの記憶、裕也は見なかったみたいだけど俺は確かに見た。見てしまった。
泣いている誰か、大切な人に手を伸ばせない悲しさと悔しさを自らの身体に叩き込むようなあの記憶。
それもこの記憶を継承する魔法を使っているのか?
「(あれはおそらく……いや、他の者には見えなかった記憶が見えたことにはなにか、意味があると思う)」
そうだ、裕也は見えなかったと言っていた。
それに意味があるのだとしたら。
(俺たちだから……見えた?)
「刀真くん?」
羽知瑠の心配そうな声が現実に引き戻す。
いつの間にか手を引っ張っていた歌芙先輩もいなくなっていた。
華やかな王宮の床から、学校のありふれた木材の床へと変わった教室に少しの隙間風が薫る。
「……やっぱ、入っちゃおうかな!」
神様の言葉がなければまだ迷っていたかもしれない。
でもそれだけじゃない、とっくに魅せられていたんだ……この部活に。
あの瞬間手を差し出した歌芙先輩は映画の主人公みたいに見えてちょっと、だいぶ、かっこよかったり……したし。
「サインを求めます、気が変わる前に、今すぐ」
そんな逡巡が自分の中で巡り、照れくさくなって頬を掻いていると戸棚の向こうから手をひらひらと見せた歌芙先輩が小走りで近づいてくる。
かわいい、ハートが揺れてる。
というかこれを取りに行ってたのか先輩……もしかして断っても入れるつもりだったのか?
先輩は魔法で素早く机と椅子を呼び出すと俺たちを座らせて入部届をすすっと差し出してきた。
「あれ、先輩俺の分だけなんですね」
「当然でしょう、あなた以外はもう他の部活に入っていると聞いていますので」
耳が早いな……どうりで俺だけ熱烈な歓迎だったわけだ。
「先輩ネットワークを舐めないでください、1時間もあれば噂は広まります」
「はや!」
そうこう言いながらサインすると先輩は手を叩いて喜んだ。そんなに部員いないんだろうか。
「よかったな!面白そうな部活だし!」
隣に座っていた守道が肩を組んで笑いかけてきた。
うーん、悩みが吹っ飛ぶ良い笑顔だ。見習いたい。
「まあ、これも運命ってことかもな」
「そーそー!以外とこういうのが後でバチッと来るんだよな!」
バチッのタイミングでウインクをしてきた守道に変顔を返して黙らせる。なんかうるさかったから。顔が。
俺たちを眺めながら先輩は先ほどの魔法映画の本を閉じる――美しい装丁を指先でなぞって。
閉じられた本に思いを重ねる。
誰の記憶か分からない、悲しい記憶。
もし今もまだ、あの記憶の誰かが泣いているのなら。
その手をつかむために、障子を蹴破ってでも行けと過去の誰かの背中を押すことができるのは、記憶を見た俺たちなのかもしれない。
離れた手を差し出して、
伸ばされた手を握り返すために。




