黄金撹拌中…
二十七話
「よーうこそー!!私が魔法研究部へ!!!」
パンパカパーン。割れたくす玉から落ちてきた紙がその場で一回転した。纏めて。全ての紙が回り終わると自らくす玉に戻っていった。え……全自動くす玉?なに?理解が追いつく前に肩を叩かれる。
「ね〜!オレを忘れてとうまきゅんたちどこへ行ってたの〜!?浮気〜!?」
揺らされた視界にグリーンの髪色が映る。この口調、このテンション……間違いなく直樹だ。そういえば他のクラスとは言え、羽知瑠は直樹を誘おうとは言わなかったな。なんでだろう?
「なおくんはもう部活入ってるんだから見学してもしょうがないよ?」
「そういうことじゃないよ〜~!!オレの青春メモリアルにさ、みんなで部活見学!っていうのも入れときたかったの!」
「そっか、ごめんね誘わなくて」
素直に謝る羽知瑠に、「んも〜許したげる!」と言って投げキッスをする直樹を放置して部室の様子を見る。いかにも研究室!という感じだがあちらこちらに無闇矢鱈に魔法を使わないでください、という張り紙がされていて普段の様子が覗える。たぶんいつも怒られてるんだろう。
「てめぇ、直樹!部長差し置いてなにやってんだ!!」
あ、怒られてる。
メガネをかけた大柄な先輩らしき人が直樹の頭をゴンッと殴った。「ワ!?ワワワ!?ワ!ワ……ワ……」
……静かになった。
「悪かったな、うちの馬鹿が絡んじまって」
「いや、大丈夫ですよ友達なんで……」
「そうか?あんまコイツ言う事聞かないからなぁ……俺がくす玉割るのが恒例だってのに」
そ、そこなんだ。先輩くす玉割りたかったのか。少し肩を落としている先輩に手招きされて椅子に腰掛ける。
棚から出したビーカーにスポイトで謎の液を垂らし、これまた謎のチューブを引き出しから出してとろりとした液体をビーカーに入れる。
「温度上昇……温度調整……混合原子……」
先輩は真剣な眼差しでビーカーを手に持ち、目の高さのところで魔法を唱える。すると謎の液体は混ざり合ってキラキラと輝き、黄金の飲み物になっていく。
す、すごい。魔法の研究者っぽい……!
「先輩〜早く出してあげましょうよ〜」
そう言いながら直樹は電気ポットからお湯を出してお茶を入れている。……おい!夢壊すなよ!てか電化製品置いてあるの!?
「ってめ!ここでそれ使うなって言ってんだろ!!」
「え〜だって先輩遅いし……このほうが早いし美味いっすよ〜」
「あぁ!?魔法で淹れたほうが上手いに決まったてんだろ!!!」
あ、また殴られてる。
先輩はどうやら魔法で飲み物を淹れるのにこだわりがあるみたいだ。まあ、確かにそのほうがかっこいいと俺は思うけど……。
「すまんな、自己紹介が遅れた。俺は魔法研究部、部長の程仮四雲だ」
「ヒュー!部長かっこいい!」
直樹は程仮先輩の周りをニヤニヤとしながらぴょんぴょん跳ねて拍手をする。
「おい!まとわりつくな!」
そう言いつつも程仮先輩は先ほどの飲み物を俺たちに分けて出してくれた。……とりあえず口をつける。あ、これは……!
「はちみつレモンだ、この世で一番美味い飲み物だぞ」
せ、先輩……!お顔に似合わず甘党なのか……!でもすごく美味しい。ほどよい酸味が甘さを引き立てている。絶妙な配合だ。
「美味しいです、とっても!」
「こんなに美味いはちみつレモン、初めて飲みましたよ!」
「甘いけどさっぱりしてて飲みやすいです……!」
俺たちが絶賛すると先輩は満足そうに笑って説明する。
「そうだろ!これはな、蜂蜜は十日蜂から採った物を使っていてレモンは初咲きの日に内海の風を魔法で集めて凝縮して浴びせた特別な物だからな!」
ビーカーに残った黄金に映る先輩は楽しそうに揺れている。飲み干した甘酸っぱさで話は弾んでいく。
「俺たち魔法研究部の活動内容は、主に様々な魔力の使い方を記録に残して発展させることだ」
「魔法だけじゃなくて魔法陣や魔導も研究対象だよ〜ちな、もっと珍しいのもあり!」
今日授業で聞いた部活は魔法研究部だったのか。様々な魔力の使い方があるらしいがここは魔法学園だから魔法以外はどうやって調べるんだろう……?
「ここは十命機関直属の学園だからな、基本的にはあそこからいろんな情報や魔本が集まってくるんだよ」
……十命機関?そういえば最初の訓練で聞いたような……?確か羽知瑠に聞こうと思ってそのまま忘れてたんだった。かなりメジャーな組織らしいが……。
「あの、十命機関とはどんなところなんです?」
あれ、すごい引かれてる。その場にいる俺以外全員が目を見合わせて可哀想な子を見る目で俺を見つめている。
……ほんとにごめんなさい、相当無知すぎるらしい。




