陽光、褒めひそめ
二十六話
足が3つに頭が2つ、目は……4つ。
なんかなぞなぞみたいな生き物だ。どうやってごはんを食べるんだろう。
トウモククロイドリ、そう呼ばれる鳥は羽を折りたたんで木に止まっている。その様子は仲の良い親子みたい。くちばしが鋭いから人間はなかなか近づけないらしい。
「すげー……建物の中に木が生えてる……どんだけでかいんだここ……」
走り回るデカイハムスターが世話係と思わしき生徒に追いかけられている。ここは魔物飼育部、通称モンスターク。俺たちは魔法クラフト部を後にしてここへやってきた。魔物の飼育と聞くと化け物系を想像するが思ったよりも動物園に近い。この場所は飼育塔と呼ばれる場所で専用の区域になっている。校舎からは離れていて、魔法陣で逃げ出さないように管理もされているらしい。
塔、と呼ばれる通りに上に伸びる構造で上階に行くほど危険な魔物がいるんだとか。そう説明してくれていた先輩は今、頭を謎のスライムに食べられている。
「あはー!まあこんな感じで上手いこと飼育しているよ」
「いや食われてますよね?現在進行形で」
「大丈夫〜!これは親愛の証だから〜」
頭半分かじられた状態で先輩――小湊貴奈子先輩は教えてくれた。あぐあぐ、と先輩をかじるスライムはオレンジ色の小さなからだを揺らしている。
「ここは一階だから……そんなに危険な子たちはいない、んですよね?」
「うん〜人に危害を加えるような子たちはいないよ〜」
「……絵面は結構やばいっすよ」
「まあ〜勘違いされがちな子たちを保護するのも大事な勉強になるからね〜」
羽知瑠と守道の質問にあはー、と笑いながら小湊先輩は答える。満足したらしいスライムがふわふわと離れていくと先輩は先を歩き出す。それに付いて通路を歩くと扉が見えてきた。緑の扉をくぐり抜けて行くと今度はひんやりとした仄暗い空間に出る。
ゆらり、と水の波紋が床に写っては消えていく。
大きな水槽が中央に。小さな水槽はそれを取り囲むように配置されていて、先輩が魔法を唱えると音もなく移動する。まるでパズルのように入れ替わる配置はとても不思議でどうやって酸素を送り込んでいるのだろうか。
「中に〜酸素を発生させる石があって〜それ自体が魔力を宿しているから動かしても大丈夫なんだよ〜」
魔力がなくなったらただの石ころだから取り替えないといけないんだよ、と言いながら先輩は水に手をつける。
浮かべた手のひらには小さな花のようなものが集まっている。
「これも……魔物ですか?」
「そうだよ~金魚花〜見た目はお花なんだけど、ちゃんと生きてて魔力に反応して色を変えるんだ〜」
ほら、と先輩が指を振ると指先の金魚花だけが色を変えていく。赤、青、紫……様々な色に変わっては振る指の振動で離れていく。
「素敵……これはどんな場所にいるんですか?」
「そうだな〜……水が綺麗な池で、なおかつ相当の魔力を持った木が生える場所じゃないとこの子たちは自生しないよ〜」
「へ〜……魔力を持った木はたくさんありますけど、相当の魔力となると人間に取られちまうし、魔物たちも沢山いる場所じゃないと魔力が循環しないから滅多にお目にかかれないですよね?」
「うん〜詳しいね〜!魔力を宿しているとなると魔装具とかに使いたい人が多くて木そのものが伐採されちゃってね〜数は少なくなったよ〜」
……意外だ、守道がこういうのに詳しいとは。見た目体育会系で運動しかしてきてません!て、感じなのに。
「おい、今失礼なこと思っただろ」
「う、嘘だよなんにも思ってないったら!」
「その言い方は思ってないと出てこないだろ……」
呆れながらも守道は笑っている。羽知瑠と顔を見合わせて首を傾げると守道は自分の生まれを教えてくれた。
「俺はけっこうこういう魔物が近くにいる環境で育ったんだよな、だから懐かしくて」
「そうなのか……でも分かるぞ、ここに来てからの守道すごく穏やかな顔をしてた」
「うん!僕も思った!魔物って聞いたら怖がる人が多いけど……守道くん、大事そうに見てたもんね」
「はは、そうか?俺こういうの好きなんだよな〜……なんか落ち着くっていうか」
頭をかきながら守道は照れくさそうに答える。水色の光に照らされて、横顔に美しい花の影を映しながら。
「や〜分かるよ〜後輩くん……生きている命が当たり前にそこにある、あたしたちの都合を無視して。なんだかそれが与える時間の穏やかさって心地良いよね〜……」
小湊先輩はしみじみと自分の思いを告げながら頷く。
守道は少し驚きながらも賛同した。
「そうなんすよね……」
その後、もといた一階の部室に戻って守道は小湊先輩に渡された魔物飼育部に入部するための用紙に名前を書いている。その様子を眺めながらここに来て守道の意外な一面が垣間見えたことが少し嬉しくて笑っていると羽知瑠が顔を覗いてきた。
「どうして笑ってるの刀真くん?」
「いや、なんかさ、いいなって思って」
「ここに守道くんが入るの?」
「うん……自分のルーツに素直に自信を持って、それに関わろうって思うところがさ、上手く言えないけどすごいことだよなぁって」
「そっか……」
羽ばたくトウモククロイドリが木の枝を揺らす。
落ちてきた葉が命の香りをさせながら地面を撫でた。




