花が永遠ならば
二話目
壇上に立つ学園長、と呼ばれた人は、思ったよりもずいぶん若い人だった。無感動な瞳、淡々とした話し声。服装からもなんだか暗いオーラを放っている。
「なあ……あれが本当に学園長なのか?」
隣の席の青年が話しかけてくる。やはり他の人もこの魔法学園の長がこんなに怖そうな人だとは思わなかったらしい。
確かに学園の校舎や雰囲気は明るいけど、それとは反対に学園長はかなり威圧感のある人だ。顔が整っているせいで無表情が余計に怖く見える……。
「ああ……初めて見たけど、ちょっと怖そうな人だな」
そう俺が相槌を返すと、彼は大きな身体を縮こませながら同意した。
「だよな……おっかねえ感じがすげえするわ。なんか魔力も禍々しく感じるな」
「でもあの人って確か─」
「ありがとうございました。一宮家当主であり三花星学園、学園長一宮光佳哉様によるご挨拶でした」
一宮家─この名を知らぬ者は魔法に関わるこの国の人間にはいないだろう。そもそもこの国の人間たちの魔法の始まり、その祖となったのがこの一宮家の祖先とされている。ここから始まりの五家と呼ばれる一宮家、二鷹家、三衣家、四方家、五式家はその祖先から力を分け与えられた。代々─魔を浄め、祓い、穿ち、封じ、使う。その役割を与えられた一宮家の当主に相応しい風格を備えたその人は、足早に去っていった。学生たちどころか、教師陣からも緊張がほどけていく。
「……なんか、どっと疲れたな」
となりの彼は本当に疲れているみたいだ。俺も物置小屋を軽く掃除したぐらいには疲れている。
なんだか胸のざわつきがようやく落ち着い感じだ。そんなに苦手な人種だったのだろうか?まだなにも知らないけどな、と思いながらため息をつく間もなく式は進行していく……が、もはや記憶がない。担当教科と担任を勤める教師陣や生徒会役員の先輩たち。それぞれがこの学園の教えや学びについて話してくれていたようだ。春の暖かな日差しと少しの疲労感で意識が軽く吹っ飛んでしまった。退場もとなりの彼に促されてようやくできた。
「お前、大丈夫か?かなり頭揺れてたぞ」
「うん、ほぼ意識なかった」
「うん、てお前な……」
あとで軽くどんな内容だったか教えてもらおう。
その前に、
「名前、教えてもらってもいい?」
「おう、俺の名前な。菊水守道だ、よろしくな」
「俺の名前は阿賀刀真、これからよろしく」
なにはともあれ、入学式は無事に終わった。午後からは二組に分かれて教室に向かうようだ。新しい生活が始まる期待と、少しの不安で鼓動が高鳴る。進む足は不思議と速くて──振れる指先は踊るようだった。




