間違えたのはこの人です
二組、青沢賢臣part3
崩れたコンクリートの瓦礫、その暗がりの中で記憶の泡沫は柔い光を放っている。宝石の周りを虹色の泡が浮かんでは消えていく……すごい、ガチャ演出みたい。
そんなアホな感想を胸に泡沫に手を伸ばす。
プツリ、と破れた感触。触れた指先からは暖かさを感じる。そのうちに光が視界を奪っていく――。
「……レベルアップ的な?」
「実感はわかないがそうなんじゃないか?」
伸ばしていた手のひらをグーパーしても特に変わりはない……けどなんとなく経験値のような物を得た……気がする?どうやら体に変化があるわけではないらしく実感が湧かないため具体的にどこが変わった、とかは説明できない。
「そういやお前の魔法具ってなんなんだ?」
「切符です!かわいいでしょ!」
えっへん!と胸を張って隣の辛くんに向けて両端を持って掲げる。デザインがかわいいので自分でもかなりお気に入りだ。でもいまいちどうやって使うのかわからな……あ!
「わ、わかる……!わかるぞ、使い方が!!」
そう、わかる!今までかわいいけどどうやって使うんすかね?と思っていたのだが、こう使えばいいんだ!というのが不思議と理解できた。もしかしなくても記憶の泡沫パワーで使い方が分かるようになったのだろう。
「辛くんはどう?使い方分かった?」
「ああ、俺も解った」
そう言いながら辛くんは右腕に着けた腕時計を見せる。
その時計は白く光り、硬さの中に柔らかさを感じさせるデザインですごく彼らしい物だった。
「これで次のステップにいけるな」
「ほ、ほんとにいくんですか……拙者はあんまり……」
「ここまで戦えるのに何言ってんだよ……センスあるんだからやらなきゃもったいないぞ」
「え!えへへ……そうでやんすか〜?じゃあちょっと頑張っちゃおっかな〜」
辛くんにおだてられてちょっとやる気を回復。
ここまできたらゴリラや先生の一つ二つ、吹っ飛ばしたらぁ!
「じゃあ、強化魔法体にかけ直して探しにいきます?」
「そうだな、とりあえずここは崩れたら危ないから離れようぜ」
辛くんの提案に頷いて二人で壊れかけたビルから脱出する。あちこち崩れかかっていてこれ以上居るのは危険だ。強化魔法をかけたあとでビルの崩れた隙間を見つけて地上に飛び降りる。5〜6階の高さはあったはずだが、この高さで飛び降りても足は痛くない。あらためて魔法のすごさに感動しながら道路を歩いた。
街の中の様子を見ながら先生を探す。見上げた豪華な建物についている時計は午後11時過ぎを指していた。訓練開始からは2時間程経っている。この濃密さ、2時間しか経っていないとは思えないな……。そう先ほどまでの出来事を思い返していると辛くんが立ち止まった。
「どうかした?」
「……先生がいる」
辛くんの視線の先を追うとそこには一組の先生がいた。飴を食べながらベンチに腰掛けて足を組んだ先生は絵のように美しく佇んでいる。綺麗な人だとは思っていたけど、人のいない街の中だとより一層フォーカスされて映えるなあ……。
「……どうする、仕掛けるか?」
辛くんとおれは先生の斜め後ろの建物の影に隠れて気配を消す。ゴリラには二人でも勝てたが、先生クラスとなると自信がない。いくら魔法具が使えるようになったと言ったって相手は魔法学園の教師だ。今さっき使えるようになった赤子同然のおれたちでは足元にも及ばないだろう。
「もう少し仲間を集めてからにしない?」
辛くんの問いにおれはノーをだした。ここは慎重にいこう……!調子のって仕掛けてもたぶんこてんぱんにされる!おれのシックスセンスがそう言っているんだ!と辛くんに熱弁するとしぶしぶ理解を示してくれた。
「まあ……俺も裕也探したいし戦力整えてからにするか」
そう言う訳で先生から回れ右をして街から離れる。先生があの場所にずっと居るのなら、あの豪華な建物の時計を目印に戻ってくればいいはずだ。
そうやっておれたちは先生から遠ざかって――
「敵前逃亡はよろしくないなぁ?君たち?」




