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指先に鱗粉

十八話

私が放った蝶たちに宗司さんが追撃の弾丸を撃ち込む。先生――八爪冬崖先生はそれを大きな皿で防ぐ。先生の視界が塞がったところで三衣くんがナイフで頭上から飛び込む。しかし先生は斬り掛かった三衣くんのナイフを持っていたスプーンをぶつけて相殺する……ここまでの流れは予想通り。私たちの狙いは先生の背後から迫る紅崎さんの鞭――これが本命の攻撃だった。 紅崎さんの鞭は鋭くも美しくしなりながら先生に向かって放たれる。先についている刃があと数センチで先生の背中を切りつける――というところで突然大きなフォークが現れて鞭の先をくるりとパスタのように巻きつけた。



「はあっ!?……ッ痛たた……!」



私たちが驚いていると、紅崎さんはそれに巻き込まれて鞭と一緒に引きずられてしまう。いけない!助けなきゃ……!紅崎さん……!



「駄目だ!君は前に出るな!」


慌てて駆け出そうとした私を宗司さんは手で制す。どうして……!そうこうしていると私が止められて動けない間に三衣くんが八爪先生に斬りかかろうとするが、巻きつけられた紅崎さんごとフォークをぐるぐると振り回して二人を吹き飛ばす。



「っ……!」


「ぅぁっ……!」


二人は別々の方向に吹き飛ばされてしまった。怪我はしないはずだけれど痛みはある。あれは打ち身ではすまないくらいの損傷のはず……二人を守らないと……!



「待て!一紗!」



宗司さんの制止を振り切って二人のもとに行こうとする。しかし、駆け出してすぐに視界が暗くなる。目の前に大きな影があった。



「え……先生……!」



突然現れた八爪先生に驚いていると衝撃で視界が揺れてぱっと明るくなる。空が見える……先生に吹き飛ばされたの……?理解する間もなく地面に叩きつけられる。痛みに息が詰まって苦しくて咳き込んだ。



「けほっ……!」


「一紗っ……!」


心配そうな宗司さんの声が遠くで聞こえる。体を起こしてそちらを見ようとしても焦点が定まらなくて見つけられない。



「宗司さん……どこ……?」



再び視界が暗くなる。今度は少しずつ、帳が下りるように。また私失敗しちゃった……宗司さんに相応しい婚約者にならなくちゃいけないのに……!そう思って手のひらを握りしめてなんとか意識を保とうとする。視界の端でチカチカと星が輝いている。次第にその星は大きくなって溢れそうになるから私は握りしめていた手を開いて掬おうとする。



「一紗……一紗……!」



星に触れた指先が少し冷たくて驚く。ああ、また泣かせてしまった。この人の涙には喜びしか知っていてほしくないのに。掬い上げられた手のひらから暖かな温度が伝わってくる。



「大丈夫か、一紗……?」


「ごめんなさい宗司さん……私……」


「すまない、俺がもっと……」


「いえ、私が振り切って飛び出したから……!」


「だが「はーいそこまで!」」



私たちがお互いを庇い合っていると突然誰かが割り込んで話しかけてきた。私は焦って宗司さんを守るために体を動かそうとしたが逆に抱きしめられてしまった。



「お前は……」


「その節はどうもー!いや~見事な連携プレーでしたよ!まあ俺達には敵わないと思いますけども!」


……!さっき私が足を狙った一組の人……!ちょうど飛ばされた付近にいたのか……確か先ほどまでは三人しかいなかったはずなのに二人増えている。まずい、こちらが不利になっている!私は宗司さんに抱えられた状態で魔導具を発動しようとした。


「ちょっと待った!まあ落ち着いて」


先ほどの彼が手を出して制止する。その手をそのままひらひらと振り話始めた。


「別に俺たちは君たちを攻撃するつもりはなくてさ、ただ課題をこれからこなそうってだけだから今は休んどきなよ」


「しかし俺達は敵同士で……」


「まあ、確かに勝敗はあるけど……でもあくまで一つの授業だからさそこまで固執する必要はないんじゃない?」


「……」


「今回の授業ではいっぱい学べたなーぐらいでいいでしょ、実戦じゃないし。それにそろそろ制限時間のはずだからここから君たちが立て直す時間は正直ないと思う」


ごめんねいやなこと言って、と彼は申し訳なさそうに笑いながら言う。でも彼の労るような目は真剣だった。……確かにそうだ。もうそろそろ訓練は終了の時間なのだ、ここからバラバラになっている私たちがどのくらい動けるかも分からないまま戦うのは現実的ではない。でも……。



「わかった、引こう」


「宗司さん……」


「俺達にそんな大口を叩いて出てきたんだ。八爪先生に一撃、与えられるんだろうな?」


「うん、やってみせるよ」



彼は仲間と顔を合わせながらそう言った。悔しいけど、私たちは判断を間違えたんだと思う。彼らは私の攻撃を受けながらも一度下がって立て直した。焦っていた自分との差に歯噛みする。同じ1年生なのに……こんなに差がある。反省を始めそうになる自分を頭の片隅に追いやって言葉を紡ぐ。


「頑張ってください……私たちの分まで。悔しいけどこれが今の私の実力だから」


「ありがとう、でもそんなに追い込まなくていいと思います……初めての戦闘訓練なんだから!できないことが正しく分かれば実戦に必ず生かせますよ!」


彼は少しはにかみながら私を励ましてくれた。……そうだ、初めてだったんだ。少し震えていた指先を宗司さんが気づいて優しく包む。


怖かったんだ、私。それが正しく分かったんだから、きっと次は……。



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