しばけ、お茶!
十六話
なんでこの人、普通にお茶飲んでんだよ!
あまりに穏やかなティータイム……まさかここはワンダーランドか?小鳥のさえずりと先ほどまでいた少し離れた川のせせらぎが聞こえてくる……いや違う、訓練室だった。どうする?攻撃しちゃう?しかし戦闘自体が初めてすぎて上手くいく自信が全くない!でもこんなチャンスはそうない……か?
一人で百面相をしている俺を歯牙にもかけないで先生はお茶を優雅に飲んでいる。あ、クッキー食べ始めた。
落ち着け、作戦を考えよう。
たぶん最適解は仲間と連携して攻撃を仕掛けて少しずつ追い詰めて一本取るのが理想なんだろう。が、いかんせんそんな仲間は今いない。となると今俺ができるのはなにか?ここで先生を逃すのは惜しい。クラスの誰かを探す暇はない……なら!
刀を先生目掛けて振り抜く。すると先生はティーカップを持ったまま飛び上がり後方に着地する。
渾身の一太刀は全くかすりもしない。くそっやっぱ無理か!
「おやおや元気ですねぇ!」
先生はそう笑いながら長身を折る。長い髪の隙間から見える先生の顔は本当に楽しそうだ。
振り抜いた勢いをそのままに手を返して一撃を浴びせる。今度は持っていたティーカップでガードされた……そんなのあり!?てかよく壊れないな!?
「あなたのお仲間だったうちの子もこうして物に強化魔法をかけていましたでしょう?」
あ、見てたんすね。ってか強化魔法……!かけたら声でバレるかと思ってあえてかけてこなかったけど、やっぱりかけないと無理そうだな!
「かけますか?強化魔法……待ちますよ?」
ムッカー!?めっちゃおちょくられてるな!?許せん!
「かけます!!!待って下さい!!!!」
でも力の差があるなんて当たり前なのだ。もらえるものはもらっとく!
「強化!」
強化魔法をかけながら地面を蹴って先生に接近する。今度は下から刀を上に振り上げる。これならカップを防御に使われても弾ける、と思ったら横からとんでもない衝撃が体を貫く。
「がッ……ぐ!?」
なにが起こったか分からないまま木に叩きつけられる。
揺れる視界の情報量と内臓が揺れる感覚の情報量に理解が追いつかない……!
痛ッ〜〜〜〜〜!!??ぶっ飛ばされた!?なんだ!?
「あははは!吹っ飛びましたね!」
痛む横腹を押さえながら上半身を起こして先生を見る。笑って先生は長い足を戻していた。どうやら痛烈な蹴りをもらったようだ。もといた場所からかなりの距離がある。どんだけ強い蹴りだったんだ!強化魔法なかったら死んでるわ!……だがこれでいい、このくらいは計算のうちだ。このくらい派手にやられないと――
「「刀真!!」」
守道が薙刀を大きく回して振るう。その後ろから現れた羽知瑠が本に何かを書き込むとページがキラリと光った。するとページが虎に変わり咆哮を上げながら先生に飛びかかる。後ろに飛び退いて避けた先生は服の埃を叩いて払っていた。
「まあ!素晴らしい!感動の連携技ですね」
先ほどよりもさらに嬉しそうに笑って先生は長い髪を払う。ダメージはなさそう……だけど、嬉しそうということはおそらく先生の中で正解に近い解答だったのだろう。
俺が先生に戦闘を仕掛けたのは仲間であるクラスメイトを呼ぶためだ。大きな戦闘の音がすれば記憶の泡沫を手に入れた近くの者がよってくる、という算段だった。それが一組の人間かどうかは一か八かだったが……成功したみたいだ。
「羽知瑠、守道!いけるか?」
「うん!大丈夫!」
「いいぜ!ぶちかまそうや!」
よし……!これだけ戦力が揃えば……!戦える!!!
「さあ、見せていただきましょう……あなたたちの交響曲を!!!」