フォレストグルーヴ
十二話
さて、歩けど歩けど木、木、木――森である。こうやって森という漢字はできたんだなぁ、とどうでもいい感想を抱く。もはや森林浴の気分だ。うーん気持ちがいい、もう昼寝でもしようか……いや、制限時間がある。補習は嫌だな、と思いなしたところで茂みが揺れる音がした。がさがさとなる方へ目を向ける……味方かそれとも二組の誰かか?どうするべきか悩んでいると盛大に転ぶ音がした。
「いたた……やあ、ごきげんよう」
えっこの状況で?突っ込んだほうがいいのだろうか?
「うーん、こっちだと思ったんだけどねぇ」
どうやら二組の人みたいだ。そういえばさっきの話の時に見かけた……ような?にしてものんびりしてるなぁ……危機感がないというか。
「ねえ、君」
え、俺?
「そうそう、君」
「はい、なんでしょうか」
「記憶の泡沫の場所知らない?」
「いや……知りませんが……」
そっか、残念。とつぶやいている見目麗しい青年に俺は思わず突っ込んだ。
「知ってても教えないだろ……普通!」
「えーそうかな」
なんというか掴みどころのない人だ。呑気すぎて呆気にとられる。まあ、敵……というか、クラスが違うので助けることもどうすることもできないのだが。
「ねえ、君名前は?」
「ああ……阿賀刀真だよ」
「そう、僕は芥江裕也。裕也でいいよ」
そういった彼はよろしく、と言いながら手を伸ばした。とりあえず手をつかんで立ち上がらせる。服の汚れを払いながら彼が立ち上がった。
「じゃ、行こうか」
「えっ」
「ん?」
「ど、どこに?」
「記憶の泡沫を探しに」
「ぱーどぅん?」
「え、君探してないのかい?」
「いや、探してるけど!」
なんてこった、全然思考が理解できない……。もう少し説明してくれないだろうか。というか、別のクラスの人と探してもいいんだろうか?別に禁止されてるわけじゃないけど、見つけたときに争いになるから避けるのが普通な気がするんだが。
「いいのか?見つけたときに争いになるぞ?」
「うーん、それはそうなんだけどね。僕は見つけたら最初のは譲るから、僕の分を一緒に探すところまで手伝ってほしいんだ」
「ふむ……」
まあ、悪くはない提案……か?今のところなんの手がかりもないし、一人で探すよりは人手は多いほうがいい。素直に信じてもいいのかが問題だが……。彼の雰囲気がなんというか、まあ信じてもいいんじゃないかな?という雰囲気ではある。それに例え記憶の泡沫をお互いに見つけたとしても、先生に一撃を与えるのが今回の課題だ。先生を見つけていない状態で敵対してもあまり意味がないのかもしれない。
……ということで
「よし!行くか!」
「おー」
まあ、たぶんなんとかなるだろう!
裕也が仲間になった!……大丈夫だよ、な、たぶん?
さて、そんなこんなで二人で歩いて探している。
景色に特に変わりはないが水の流れる音や鳥のさえずりが聞こえてくる。よくよく考えたらここは訓練室で川があるのはおかしいし、鳥が飛んでいるのもおかしいのだが……。まあ、魔法で空間を作り上げているみたいだから素人の考えなんて通用しないのだろう。そんなことを頭の片隅で考えながら、先を行く裕也を見ていると何かしらの目標があって歩いていることに気づいた。もしかして記憶の泡沫のヒントを見つけたんだろうか。
「なあ、どこに向かって歩いてるんだ?」
「今は鳥を追いかけてるよ」
「鳥?なんで鳥を追いかけてるんだよ」
「不思議だな、と思ってさ。あの鳥、一定の間隔で同じ場所を飛んでるから」
なるほど、言われてみると確かに一羽だけ群れの中で飛んでいるように見えて何度か群れから外れては旋回して戻っている。まるでその範囲を囲うようにくるくると――
「……!あの一羽の鳥が降りてきたぞ」
「ほんとだ……どうやら当たりを引いたみたいだね」
俺達がその範囲に入ると一羽が群れから外れて木に降りて止まった。ここになにかがあると言わんばかりだ。その木に近づくが特になにもない。鳥がなにかを持っているのかと思ったが、そうでもないみたいだ。記憶の泡沫について先生は宝珠と言っていたからおそらく宝石のように輝いているはずだ。
「この木になにかがあるのは間違いなさそうだけど……」
「そうだね……」
鳥は相変わらず木に止まって、時折木をつつきながらも動く気配はない。たぶんなにかのアクションを俺達が起こす、とかしないと記憶の泡沫は見つけられないのだろう。俺達が今できるアクションを考えてみる。そもそもこれは授業だ……つまり、今までに学んだことで対処できるようになっているはず。ということは、これまでに学んだ魔法を使うんだ。うん、そう考えると道筋が立てられる。これまでに学んだ魔法は移動魔法、防衛魔法、強化魔法……このどれかは必要なはず。まあ、思いつく限りやってみればどれかは当たるだろう――まずはこの魔法でやってみるか。