生まれたままでは、いられない
十一話
驚きと困惑の声が二つのクラスから上がる。そりゃそうだ、まだ2日目で戦闘訓練なんてできっこない。というか、武器や魔導具の使い方も分かっていないのだ。助けを求めて真野先生を見ると少し困ったように笑いながら、
「あはは……まあ困るのはわかるんだが、これが一番手っ取り早く身につくからさ!それに怪我はしないからそこは安心してくれ」
でも痛いのは痛いんじゃ……?と今朝の羽知瑠との会話を思い出す。この場所自体に魔法がかけられているとはいえ、素人の俺がいきなり戦えばまともに武器も扱えずに即、ジ・エンドだろう……そのへんはどうするんだ?
「魔導具の扱い方についてなんですが……!なんと!記憶の泡沫という魔法の泡に触れることで先人のある程度の知識を得ることができます!」
「記憶の泡沫は展開した各地に配置されているから、今回はそれを探しながらクラス対抗戦をしようか」
「ルールをご説明致しましょう!2クラスに分かれて記憶の泡沫を探しながら、私たち先生に攻撃を一撃でも当てられたほうが勝利と致します!」
「時間制限を設けているからそれまでに終わらなければ後日補習だ」
先生の話を聞きながら納得する。なるほど、記憶の泡沫とやらに触れれば魔導具の扱い方について分かるようになるのか、それは便利だな。基礎を魔法で習得してしまってから、自分の特性をその後出していく……初日に真野先生が言っていた自分だけの魔法は、このことを下敷きに言っているのだろう。そしてクラス対抗にすることで一人一人の魔法にある特色のカバーをそれぞれの生徒で行える。単独では活かしきれない能力も団体戦なら死なせずに活かせる。なにも攻撃魔法だけが現れるわけじゃないだろう。羽知瑠や直樹のように武器っぽくない魔導具もある。適性のある役割や能力も違うだろうし、得意な魔法も違う……となれば初戦で苦手意識を植え付けないためには、団体戦が合っているんだろう。
「大きく分けてエリアが二つあります!市街地、森林地帯……最初は一人ずつエリアの各地に転送されますので記憶の泡沫を探しながら各クラス合流したほうがいいでしょうね!」
「制限時間は4時間だ。それまでにとりあえずの目標としては全員が記憶の泡沫に触れることを目指そう」
「では!皆さんお待ちかね……イッツショータイム!と参りましょう!」
先生がそう言うと辺りが真っ白になって見えなくなる。眩しさに目を瞑ると急に足元から地面の感覚がなくなった。……は?わけもわからずに周りを見るとそこは――
空だった。
え、え?浮いてる?いや、堕ちている?
手が空を切る。掴むものなど空中にはなにもない。
「うわああああぁぁ!!?」
叫んでいる間にも身体は落下していく……え?これ普通に死ぬんじゃないか?死ぬのはないよな?……ないって言ってくれ!言ってください!お願いします!
そんなことを考えている限りはまあ助からない!分かってはいるが……!とりあえず着地……!ええい!……なにか方法は……!
……そうだ!
移動!
地面スレスレで自分の身体に魔法をかける。移動の魔法をかけて落下の勢いを相殺する……なんとか成功したが、これ思いつかなかったら死ぬだろ。普通に。
足が地面に着くと土を踏みしめる。
地面がある……!この安心感は忘れられないだろう、一生。地面バンザイ……!もう地面にキスしたいくらいだ!などと思っていたが、ふと先ほどの先生の話を思い出す。そういえば、エリアが二つあると言っていたな……俺はどうやら森林地帯の方に来たらしい。辺りを見渡すと木と草しかない。記憶の泡沫を探したい……が目印もなにも今の場所にはなさそうだ。
どうしたものか……うーん、まあとりあえず歩くか!なんか見つかるだろう!
木に目印としてピンで傷を付ける。なんの形にしようか……うん、これでよし。
ねこの形の傷を付けた木を背に歩き出す――
手を伸ばした偽物の太陽へと拳を握りしめた。