99.強い意志
イオアトス近くにある遺跡群は数百年前に滅びたログロンド王国の王都だ。
俺が知っている話だと、数百年前にこの王都の地下深くに大きな魔力の通り道……すなわち龍脈が発見されたらしい。この龍脈は魔獣発生や異常現象などを引き起こす危険がある為、当時の偉い人達が話し合った結果、王都を捨てる事になったらしい。
それでイオアトスから三日ほど離れた現在の王都、ログロンド王国の都市ログロンドへ数年かけて王都機能の全てを移したのだ。
やがて捨てられた旧王都は、魔力の流出や魔獣発生などがあり、あっという間に廃都になったということらしい。
というのが俺の知っている現在の遺跡群の成り立ちだ。
その魔力の通り道、魔力龍脈の乱れが最近起きている魔獣関連の異常の原因だとネルアリアが断言する。
じゃあその乱れの原因は何なのか? ネルアリアはその証拠もあると言う。
「確かに証拠はある。が、今ここでは話せん」
「どうしてですか?」
「その乱れを起こした首謀者を一網打尽にしたいのじゃ」
「それでは魔力龍脈の乱れは人為的なものなんですね」
「そうじゃ。じゃが、妾が掴んだ証拠ではまだその首謀者までたどり着くことが出来ん。それに……」
ネルアリアがジト目で笑みを浮かべながら俺に目を向ける。
「この一件にあまり首を突っ込みたくない奴がここにおるのでな……」
「やっぱダイラーの件の続きかよ」
「そうじゃ。あの時の組織が絡んでおる。セレスよ」
「はい」
「ひとまず遺跡群にはしばらくの間、あまり冒険者を近付かせんようにするのじゃ」
「分かりました。長引きそうですか?」
「いや、そのつもりはない」
ネルアリアの表情が真剣なものになる。
そして俺に目を向ける。
「ラドウィンよ。お主に仕事の依頼がある」
「え〜〜……。またかよ」
「そんなイヤそうな顔をするな!」
「だって前の時も結構大変だったし……。それに……」
チラリとセレス女史を見ると、俺から目を逸らして咳払いをする。
前はセレス女史から宿代一ヶ月半額をエサに引き受けてしまったのだけど。
でも今回は憲兵を動かせるのでは? 別に俺みたいな冒険者を使わなくても憲兵が行ってくれるでしょ。
とか思ったが、ネルアリアから意外な答えが返ってくる。
「憲兵は信用ならん。何処まで奴らの息がかかっておるか分からん以上、下手に使えん」
前は憲兵隊の隊長のダイラーが裏切っていたのだ。未だ憲兵の中に裏切り者が潜んでいる可能性は充分に考えられた。
ネルアリアが警戒するのも無理はないが……また俺かよ。
「頼まれてくれるか? ラドウィン?」
「ん〜……内容次第だね」
「うむ。では妾の屋敷に参ろう。そこで詳しく話す」
結局俺はこの後、ネルアリアの屋敷に行って、魔力龍脈の乱れの原因とネルアリアからの依頼内容を聞くことになった。
ギルドの応接室を出て、セレス女史と別れてレストランスペースを通って出入口の方に向かった。
ネルアリアが馬車に乗せてくれるというので、ギルドの前に停めているネルアリアの馬車に向かう。
ギルドの受付カウンターの隣を横切ろうとすると、一人の受付嬢が俺に声を掛けてくる。
「あ……あの、ラドウィンさん」
「はい?」
「お連れの方が……」
「連れ?」
受付嬢がカウンターの端の方に目を向ける。俺もそちらに目を向けると、待ち合いに使うような小さなベンチがある。そこにさっきまで腰を掛けていたであろう女性が、一目散にこっちに走って来ていた。
反応が遅れた俺に、飛びかかってくる女。弾力のある胸の感触が顔に当たる。
「ラドウィン! ラドウィン!」
女性の胸の辺りで頭を抱えられた俺は、無理矢理体をはがして、女性の顔を見上げる。
「お前……毒は? もう大丈夫なのか?」
「うん。治癒師の人が治してくれたからもう大丈夫」
レヴィアラがまた俺の頭を抱き締める。
ぐ……。苦しいのでまた無理矢理レヴィアラの体を引き剥がす。が、両脚もしっかりホールドされて俺の体から離れようとしない。
「あの……ちょっと離れてくれないか?」
「え? 何で?」
「小娘。歳の割りに女に免疫のないラドウィンが困っとる。離れてやるのじゃ」
「そうなの?」
免疫ぐらいあるわ! 免疫はあるが、ギルドのカウンター前で女性に抱きつかれるのはさすがに恥ずかしい。
仕方なくといった風にレヴィアラが俺の体から離れる。ていうか、どういうことだよ?
何で俺はいきなりレヴィアラに抱きつかれているんだ?
レヴィアラが今まで見たことがないような笑顔を俺に見せている。
「とにかく……傷とか毒はもう大丈夫なんだな?」
「うん。ほら」
レヴィアラが服の裾を持ち上げてお腹を見せる。確かにすっかりキレイに治っているが……。
「分かった……もう見せなくていいよ」
「ええ? ラドウィンがそんなに恥ずかしがらなくても良くない?」
周りから変な目で見られるからイヤなんだよ! ほら! お前がいきなり俺に生腹を見せるから、もう既に何人かの受付嬢が何事かと、遠巻きに見てくんのよ!
「ラドウィン。この小娘は知り合いか?」
「いや、知り合いというか……さっき迷宮でスライムに襲われた奴だよ」
「毒にやられていたという冒険者か」
「ラドウィン。この人だれ?」
「あぁ……えっと……」
「ネルアリアじゃ。これからラドウィンと仕事の話をするのでな。すまんがラドウィンを連れて行くぞ」
「そういうわけだから……じゃあな」
レヴィアラにそう言ってネルアリアとギルドの出口に向かおうとすると、レヴィアラが俺の腕を掴んで引き止める。
「ワタシも行く」
「いや、お前には関係ない話だから……」
「嫌。行く」
訳が分からん。何故こいつは俺に付いてこようしている?
ネルアリアが振り返りながらレヴィアラに尋ねる。
「小娘。何故ラドウィンに付いて来るのじゃ?」
真剣な目をネルアリアに向けたレヴィアラが応える。
「ワタシは……これからラドウィンの為に生きると決めた。だから……ラドウィンと一緒に行く」
レヴィアラのその濃灰色の瞳は、今までの感情が読めないものと違い、しっかりと強い意志を感じさせた。
レヴィアラは細身ですけど、出てるところは出ています。




