98.魔獣異常現象の原因
冒険者ギルドの応接室。
そこで向かい合っているギルド長のセレス女史は、俺から渡された報告書に厳しい視線を落としていた。
既に俺がバカでかスライムに遭遇した迷宮には、立ち入り禁止のお触れが出ていた。
その上で、詳細な情報が欲しいとのことで俺はセレス女史に呼び出されていた。
ソファの向かい側に座るセレス女史はさっきからずっと厳しい顔のまま無言で報告書に目を通している。そして最後まで読みきってから、おもむろに顔を上げて俺に聞いてくる。
「ラドウィンさん。この魔獣のことを詳しくお聞きしても?」
「ええ。分かる範囲でなら」
そう応えると、セレス女史はこのスライムについて色々と質問をしてきた。俺はあまり憶測は挟まず、見たままを伝える。
いくつかの質問に答え終えると、
「分かりました。ではラドウィンさんこの魔獣について何か気付いた事があれば、教えてください」
覚えている範囲でバカでかスライムの特徴を伝える。特に伝えたかったのは驚異的な速度で動く触手と、真っ二つの状態からでも再生した核の事だ。
通常スライムは核を傷付けられると、体の形状を維持出来なくなる。なのに、あのバカでかスライムは核を真っ二つに斬られても核が再生し、核が再生した方の体は崩れなかった。
ひと通りの俺の説明を聞き終えて、セレス女史が報告書に目を落とす。
「ありがとうございます……で、この魔獣を最後に仕留めたのはラドウィンさんですね?」
「そうですね……というかもう一人の連れと、ですね」
「この猛毒に冒されたというレヴィアラさんという冒険者ですね」
「そうです」
「彼女と魔晶石採取に?」
「ええ」
「以前からのお知り合いですか?」
「知り合ったのは最近だね……」
「では知り合ってすぐに同じクエストに行かれたと?」
「まあ……そうだね」
「彼女とは初めてのクエストですか?」
「そう」
「いつも一人で行かれるのに、どうして同行したのですか?」
「彼女がまだ何のクエストも受けた事がないので、教える為……だけど?」
「なるほど……。優しいんですね」
何か途中からスライムじゃなくてレヴィアラに関する質問になってない?
レヴィアラに関しては元殺し屋とか正直に言うと、色々と説明がややこしくなりそうだから所々隠させてもらおう。
ゴホンと咳払いした後、セレス女史が再び報告書に目を落としながら聞いてくる。
「これはあくまで私の推測ですが……」
そう言って前置きしてからセレス女史が更に続ける。
「最近あの周辺の遺跡群で頻発している強力な魔獣が出現する現象と関連があるかもしれませんね」
あの遺跡群の周辺では、以前まで出現しなかったような強力な魔獣や、本来群れない習性の魔獣が数匹で行動しているといった事がたびたび目撃されている。
現に俺もあの近くの迷宮で、ミッグス達がブラックウルフの群れに追われ、ツァミがレッサーデビルに襲われたのを目撃している。どちらの魔獣も前まで遺跡群周辺では見た事がない魔獣だ。
セレス女史が報告書から顔を上げる。
「以前からこういった現象に詳しい方に調査と見解を依頼しているのですが、なかなかお忙しい方でまだ返答がないんですよね……」
「ああ。もう依頼してるんだね」
魔獣の生息域や習性が変わるといった現象は稀に起こる事だが、この短期間にこれだけ集中するという事は何かしらの要因があるはずと、セレス女史は話す。
既に詳しい人物に依頼しているそうだが、学者とか研究者だろうか? どちらにしても一介の冒険者の俺なんかとは、何の接点もない超賢い人なんだろうね。
不意に応接室の扉がノックされた。扉の外から受付嬢の声がする。
「ギルド長。お客様がお見えになりました」
「今は来客中です。別の部屋で待ってもらってください」
「えと……それが……」
受付嬢が言葉に詰まると、扉が開いた。
戸惑う受付嬢の隣にいるのは、いつもの黒と赤のローブに身を包んだネルアリアだった。ネルアリアは俺とセレス女史の姿を確認すると、
「妾は別に構わん。じゃろ? ラドウィン?」
「ネルアリアかよ……」
「何じゃ? 久々に会ったのに冷たいのぉ」
ネルアリアはズカズカと部屋に入って来て、対面する俺とセレス女史の上座のソファに腰掛ける。
さて、とネルアリアが俺とセレス女史の顔を交互に見比べる。
「セレス。前から依頼を受けていた調査について、妾なりに見解をまとめたぞ。聞くか?」
「ええ、ぜひ。ちょうどラドウィンさんとその話をしておりました」
てか、セレス女史が依頼してた詳しい方ってネルアリアの事だったのかよ。普通に接点あったわ。
ネルアリアが俺達に話し始める。
「結論から言うと、魔力龍脈の乱れが全ての原因じゃな」
「魔力龍脈?」
「ネルアリアさん。それは旧王都の地下を走っている魔力の通り道の事ですよね?」
「そうじゃ。その通り道の魔力が乱れておるから、魔獣の習性や生態に異常が表れておる」
随分と自信ありげに断言してくるんだな。確かな証拠でもあるんだろうか?
「ネルアリア。それって何か証拠があるのか?」
「ある」
ネルアリアが小ぶりな胸を張って、ドヤ顔で応えた。
ネルアリアはスレンダー体型なんです。




